“フワフワ浮かぶんだよ”『IT それが見えたら、終わり』
- 作者: スティーヴン・キング
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2017/10/03
- メディア: Kindle版
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スティーブン・キング原作!
ある大雨の日、外に遊びに出かけた少年は、兄の作った小舟を追いかけて排水溝にたどり着く。中には、風船を持ったピエロがいて、彼に声をかけて来た……。消息を絶った弟を探し求めるビルは、街の下水道が荒地へと通じていることを突き止め、仲間とともに探検しようとするのだが……。
かつてのテレビ映画からのリメイクは企画自体はあったものの、前後編に難色を示されたりと色々と紆余曲折あったようね。前編がヒットしたら後編も作る、ということで落ち着き、無事に大ヒット!
旧作は演出やペニーワイズのビジュアルは良かったんだが、後編のクライマックスのあまりのショボさにトータルは50点に落ち着くという悲しい代物でありました。まあ総じて駄作・珍作の多いキングの映像化の中ではましな方だろうが……。
今作はビル・スカルスガルドがピエロに扮し、子役たちに襲いかかる! さすがに最新技術と大予算を惜しげも無く投入し、血の量も半端ないことになっている。冒頭は超有名な、下水から顔を出すペニーワイズのシーン。このシーンにこのキャラの手口や恐ろしさ、嫌さがぎっしりと凝縮されていて、本当に怖い。ここで弟を失った主人公の立ち向かう理由になるという意味でも重要なんですよ。
ペニーワイズは実際の連続殺人犯をモデルにしているが、超常的な怪物であり、舞台となるデリーという街そのものの暗部でもある。デブ少年によって紐解かれる街の歴史の本の中でも凄惨な事件が語られ、そこでもピエロの暗躍が描かれている。怪物が巣食っているからそういった事件が起きるのか、怪物を引き寄せる負の要素が住む人間の心にあるのか、は判然とせず、まあおそらく両方なのだろう……。いずれにせよ、怪物はそれを食らっているのだ。
おなじくキングの『スタンド・バイ・ミー』的な通過儀礼の物語でもあるのだが、主人公ら少年少女の両親、あるいは片親は、それぞれ問題を抱え、子供を縛る存在として描かれる。ペニーワイズによる「搾取」が行われている地に留まり続け、子供たちにもそれを受け入れさせ定住を迫る。
こういう搾取の連鎖を断ち切ることも、通過儀礼的物語の機能なのだが、単に街を出るだけではなく、出た後の心の平安のためにもこの問題を解決していかなければならない、という厳しさ!
そこに思春期にはありがちな女子の問題が絡み、紅一点べバリーがガツンと存在感を発揮。いやこの年頃は確かに女子の方が成長早いよな。男子の中でも主人公のビルとデブ少年ベンが三角関係に! 終盤には、おまえどっちにすんねん、と、いささかもやもやさせられるが、やはり主役優勢か……?
ペニーワイズさんは嫌らしい幻覚を見せるのと並行して、いきなり歯をむき出しにして暴力に訴えてくるのがまたひどくて、いかにも連続殺人犯のメタファーだな、という気がする。思えばキングは常に直接的な暴力の怖さをも描いてきた。心理的な恐怖に怯えてたらいきなり殴ってくるので、逆に「怖い」という感覚は薄れてしまう面もあるのだが……。実際、現れて何もせずにニヤニヤしているところまでが一番怖い。
お気に入りの怖いシーンは、死んだ弟の「フワフワ浮かぶんだよ。みんな、フワフワ……」だな……。
しかし、言わずと知れた傑作小説を、その含意も込みできっちりまとめて映像化して、さぞ素晴らしいのであろう、と思いきや、各キャラの描き方の手際の良さなど見事で面白いことは面白いのだが、引っ掛かりが何もなくて、逆にダイジェストみたいに見えちゃうのだから、不思議なものである。
原作の一級のエンタメとしての過不足なさがよくわかって素晴らしい! と思う反面、質感としては物足りないというか……まあその辺りは後編に期待だろう。
今作でのキラキラした子供達の輝きに魅せられた人が、25年後、くすんだ中年になった主人公たちに対面した時に何を思うかが楽しみである。だいたい『スタンド・バイ・ミー』にしたって、あのかわいかったウィル・イートン君が大人になったらリチャード・ドレイファスになってるという悲しさ! そしてリバー・フェニックスは早逝……。約束もクソもなく早々と死ぬ奴やら脱落者続出で、こんなおっさんらがどうやって戦うの、という絶望感溢れる一本になりそうだ……。
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