コロナ真っ只中の映画館

 緊急事態宣言は解除だとか、大阪モデルで緑色だとか、まあ色々と言っているが、別に何かが終わったわけではなかろう。ウイルスが消えたわけでもないし、街の人は相変わらず少ないまま、インバウンド景気とかもはや泡沫の夢だ。
 それでも日常は形を変えて続くし、何かが変わってもそこで生きていくだけだ。

 映画館の仕事を終えてから、もう三ヶ月になる。一応、次の仕事も決まったので、どうやら他の映画館で返り咲きとか、そういうことは検討しなくて済みそうだ。

f:id:chateaudif:20200605111345p:plain
俺がやるべき事は全て終わった……

 もしかまた、気が向いて自分のためにやりたくなったら、考えてもいいかもしれないが。


 オレの業界での仕事は終わったが、客としての映画館通いはまだ続く。4月頭から映画館もしばらく行かなかったが、久しぶりに行っても特に感傷はなかった。まあ二十年ばかり、年中映画館にいたわけだからな。

 どこもアルコールを置いたり、座席を一席開けて取ったり、売店の前にシールドを張ったり、チケットに触れなくなったり、色々と対策をしているようだった。なんとなく今でも、運営側の目線で見てしまうが、ある意味手間の削減になっている部分もある。以前から大手は券売機など導入して、対人の接触は減る方向だった。それがまた一歩進んだようにも見える。もっとも大変なのはこれからで、このシステムで真夏に大箱使っての家族連れ映画をいかに回すか、まだ誰もやったことのないオペレートをやらなければならない。考えただけでもうんざりする。もう手伝うことはないが、まあ一観客として、協力できるところは協力したい。

 そんな中、TOHOで『AKIRA』、ミニシアターで『キュアード』を観てきた。

 前者は言わずと知れた大友克洋の傑作のリマスター、IMAX上映版。鑑賞は2回目。1回目はBD上映だったらしく、爆音上映ということもあり素晴らしかったのだけど、今回は細部の見え方が全然違って、いや、今は2020年やで……と絶句してしまった。リマスターも素晴らしい仕事だが、元の作画がやはり凄すぎる。作中では東京オリンピックが木っ端微塵に吹き飛ばされ、現実を先取りしすぎてしまった一本。傑作というのはこういうものか……。

 『キュアード』はアイルランドで製作されたゾンビ・パンデミック映画。感染した後に数年を経て「治療」されたものの、感染時の殺人の記憶を持った「回復者」たちは人々から疎まれ迫害を受け続け、元の社会的地位を回復できないでいる。パンデミック収束後の後始末、再感染の危機、そういったものが描かれ、これまた今観るにふさわしい映画。製作にも参加している主演エレン・ペイジは、「回復者」を義弟に持つシングルマザー。夫はパンデミックの際に行方不明になった……ということだが、まあどうなっているかはすぐにわかる。自身は非感染者として世相を追うジャーナリストで、非感染者、回復者、未だ回復していない感染者が交錯する世界で、俯瞰的、非差別の立場に立とうとするのだが……。
 セクシャリティをカミングアウトしてから、出演作においてもますます主張を強めているエレン・ペイジだが(『アンブレラ・アカデミー』もおそらくそうだ)、今作もまたその一部であり、作家性を出してきているな、と思う。あの小さな身体で、パンデミック後も何も変わらない「我々のこの世界」でもがき続け、中指を立て続ける姿は、いつもオレに勇気をくれる。これからもずっと応援し続けたいな。

 ちょうど映画館通いの再開がこの二本になったのも、何某か示唆的ではあったし、観てよかった。いつまた行けなくなるかわからんし、6月はまた予定を詰め込んでいきたいね。

CURED キュアード [Blu-ray]

CURED キュアード [Blu-ray]

  • 発売日: 2020/09/02
  • メディア: Blu-ray