“愛なき地獄”『ラブレス』


『ラブレス』予告編【4/7(土)公開】

 ロシア映画

 ボリスとジェーニャの夫婦はそれぞれに仕事を持ち、新たなパートナーと再出発するために離婚しようとしていた。だが、唯一の障害は12歳の一人息子で、二人共が新生活に息子を必要としていなかった。押し付け合う二人の口論を聞いた息子は、翌日、学校を出て帰らず行方不明に……。

 なかなか普段見ることのないロシア映画。モスクワを舞台に、1人の少年の行方不明事件を描く。
 離婚寸前の夫婦がいて、すでにお互いに新しいパートナー候補がいる状態。別れて家を売ってまでは同意しているが、残る問題は一人息子の行く先。しかしながら、どちらも子供好きじゃないのがありありで、お互いに「子供を引き取れ」「いやだ、お前が引き取れ」と押し付け合い、夜中の大げんかをたまたま起きてきた子供が聞いてしまう。
 翌日、学校を出てからなぜか帰らない息子ちゃん……。

 タイトル通りなのだが、この夫婦に本当にラブがなくて驚き。そもそも結婚自体からして「家を出たかったから」「あの子ができたから」と言う母親、離婚したら会社をクビになってしまう可能性ばかり気にする父親。お互いの愛はもちろんのこと、子供への愛も欠片も見えて来ずクラクラしてくる。父親の方はすでに別の女を孕ませていて結婚を迫られていて完全に最初の結婚をなぞっており、母親は割と金持ってそうな男やもめを見つけて今度こそ違う道を歩むと意欲満々。同じことしてもう一回上手くいくのを目指すか、まったく違うタイプを選ぶのか互いに方法論が違うところが面白いですね。

 息子の行方は知れず、当然最初は警察が動く……のだが、まあこれが超やる気なしで全然捜査せず、いきなりボランティア団体を紹介! こりゃあダメだ……と思いきや、このボランティア団体が超有能で、リーダー以下のメンバーが慣れた手つきで手順をこなし、近所の聞き込みから張り紙作り、母親の実家まで同行と、淡々とローラー作戦を進めていく。いや、あまりに有能に描かれてるので、この映画自体が彼らの活動の啓蒙フィルムみたいになっている……警察が役に立たなさすぎな反動なのか?
 近所の森を横列で距離をキープしつつしらみつぶしにしていく手際、息子ちゃんの名前を「アレ〜クセ〜イ!」と呼びかける声の通りっぷり……全てが凄すぎますね。

 しかしその有能さにも関わらず、息子の行方は観客にだけぼんやりと想像できるようになっていて、まあ見つかることはありえない。捜索の間も、この夫婦の「生態」がつぶさに語られ、そのラブのレスっぷりが息子やお互いに対してだけでなく着々と明らかに……まあ自己愛だけはいっちょまえなんでしょうが。
 己の中に愛がないため、愛することができないのは当然ながら人に愛されることもまたないのだ……ということで、ラストでは再び行き詰まりを示唆される。息子を失ったという十字架も決して消えない……『血観音』に続く、今年2本目の『インファナル・アフェア』案件だったな。愛なき現世こそ地獄なのじゃ……。