”亡き人の為に”『空海』


「空海 -KU-KAI- 美しき王妃の謎」予告

 チェン・カイコー監督作!

 遣唐使として海を渡った空海。白楽天という男と親交を深める中、長安の街を揺るがす権力者の連続殺人に巻き込まれることに。50年前、彼と同じく日本からやってきた阿倍仲麻呂、そして絶世の美姫・楊貴妃を巡る謎とは……?

 一時は吹替のみの公開になっていたが、字幕の上映も追加されたので行ってきました。原作は夢枕獏空海染谷将太、白楽天にホアン・シュアン。

 「妖怪」「鬼」が出てくる伝奇ものということだが、話の構造はミステリになっている。都で起きる謎の連続殺人に、異国からやってきた名探偵が依頼を受けて臨むという構図。鍵となる楊貴妃の死を、いうなれば小説化している白楽天がワトスンで、空海ホームズが彼を連れ回って事情を聞きながら事件を解き明かす。だが、目の前でまた次々と殺人が……。

 犯人は謎の黒猫(!)である、というのはわかっているので、さあ猫の正体は何者で、なぜ殺人を犯しているのか、というホワイダニットが中心になる。このあたりホームズと言うよりは横溝で、目的である生々しい復讐が遂げ終わってだいたい皆殺しになってから犯人がわかるというパターンを踏襲! 実に伝統的なストーリーテリングで、面白くなるツボを外していないのである。

 原作は『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』だが、鬼というのは虎パン履いて角生えてる人じゃなく、言うなれば妄執そのもの。後半はそっちにガンガン感情移入させていく作りになっているのだが、気持ちこそわかるものの、そうして恨み続けるのはつらいばかりだから、安らかに眠ってほしい、というのが落とし所になる感じね。

 中国語を頑張りつつもいつも通りにニヤニヤしている染谷空海、白楽天が結構直情的な人に見える一方で、殺人こそ防げないものの(つうかこの人は日本からの留学生なんだから、こっちの役人を助ける必然性は相当に低いよね)、着実に事件を解き明かしていく。

 監督チェン・カイコーということで、金メッキの張り具合は天下一品(褒めてる)、楊貴妃周りの豪華絢爛さは、それが回想シーンであるということもプラスされて、要は話が盛られているかのごとき夢幻絵巻と化す。
 そんな中、伝説の美女楊貴妃のキャラはいささかぼんやりとしているのだが、こういう束の間言葉を交わしただけの女のために人生、命まで賭けてしまうのが「美」というものなのであろうか。

chateaudif.hatenadiary.com

 思いのほかずっと猫映画だったのもポイントが高く、もう少し猫のCGがブラッシュアップされていたら、例えば『メン・イン・キャット』ぐらいの出来だったら倍ぐらい感動したのでは。昨年、飼い猫を亡くして老いを目の当たりにしてたので、色々と胸にくる描写もありましたね。全然期待してなかったら、トータルではかなり面白くてよかったです。

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