”ナイフから包丁へ”『ミスター・ロン』(ネタバレ)
チャン・チェン主演作!
六本木での暗殺の仕事に失敗した台湾の殺し屋ロンは、間一髪、田舎町に逃れて身を隠した。そこで心を閉ざした少年やその母親、気のいい住人たちに助けられたロンは、日本語もできないままに得意の料理で屋台を営むことに……。
チャン・チェンが邦画に出演、ということで、ナイフ一本で標的を切り刻む、台湾の凄腕の殺し屋役。しかし仕事を請け負って日本に来たのはいいが、なぜかナイフがポッキリと折れて失敗、袋叩きにされるのであった……。
危うく始末される寸前だったが、ボスに恨みを持つLDHが乱入したことでぎりぎり逃れて廃屋に逃げ込む。そこで近所の少年に野菜をもらって自炊生活を始めたところ、周辺の村の人たちが手を貸してくれて、台湾麺の屋台を出すことに……。
チャン・チェン本人が「なぜこんなことに……」と言うこの設定からしてまああり得ないが、この後の展開も超絶的にファンタジー感を増して来る。SABU監督って初めて見たけどこんななのな。
近所の少年の母親がシャブ中になっていて、村人にも「シャブ女」と呼ばれている。それには深いわけが……ということで、彼女とその男であるLDHの人が登場する回想パートが始まるのだが、これがまた映画の流れをぶった切ってめちゃくちゃ長い! LDHの人はチャン・チェンを結果的に助けることになりつつも死ぬのだが、この回想の方が遥かに出番長かった。製作側の大人の事情を勘ぐってしまうぐらいに長くて、そうでないならこの女の方が主人公なのであろうか、とさえ考えさせる。
チャン・チェンはこの女にシャブをやめさせ、子供に屋台を手伝わせて生活再建の道筋を作る。自分も村人についでに廃屋を直してもらってしっかり住み着くことに。ここらへんは田舎の人情ということで、ホロリとさせるいい話ではある。が、そうしていい話げに撮られていつつも、三人が温泉に行ってお土産を買って来ても、「ロンちゃん」の周りには村人が群がるが、「シャブ女」は輪の外でガン無視されていたりする。ああ、田舎もんの排他性……。
ファンタジックな展開と裏腹に、バイオレンスはしっかり撮られていて、人情の対極の暴力性が、まさにナイフのごとく突き刺さる。ナイフバトルは『アジョシ』でも見た数回刺して戦闘不能に追い込むスタイルで、ロンvsヤクザ軍団のクライマックスは、非情の殺し屋の本領が悲しくも発揮されて最高ですね。
エンディングはまさにこの映画の全部を煮詰めたようになっていて、一人台湾に戻り殺し屋稼業を再開しようとしたロンのところに、村人たちが子供を送り届けて来る。まあ感動的なシーンで、ロンちゃん本人が「みんな、なんでこんなところに!?」と突っ込みつつ特に回答はないところがいいですね。ロンにとっても子供にとってもこれで良かったが、村人的には実は厄介払いしに来たのではないか、という気がするところも……。
エンドロールを見たら、「野良犬」小林聡が出ていたらしいのだが、初見ではまったく気付かず。ヤクザ役のどれかかな……。もうちょっと役者としてもバリューがあれば、チャン・チェンのカミソリ八極拳とキックボクシングの対決が見られたかもしれない。
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