”全てぶち壊せ”『怪物はささやく』


『怪物はささやく』本予告

 A・J・バヨナ監督作。

 病を抱えた母と暮らす13歳のコナー。悪夢にうなされる彼の元に、巨大な木の怪物が現れる。これから三つの真実の物語を話すという怪物は、四つ目としてコナーが隠した真実の物語を語るように要求する……。

 バヨナ監督で『パンズ・ラビリンス』のスタッフが再結集というと、これはもう『永遠のこどもたち』じゃあないですか。否応無く期待が高まるところ。

 病に倒れた母親との別れに直面した少年。離婚した父親はすでに海外で、母の入院中は祖母と暮らすことになる。ある夜、夢の中に巨大な木の怪物が現れ、少年にまつわる三つの物語を語り始める。
 怪物は何者なのか、物語の果てに少年は心の平安を得られるのか。少年を中心に、母、祖母との関係とその変化を描き出す。

 とりあえず怪物がお話を三つ語り、それから少年の物語がある、という話運びなので、怪物が勿体つけたりすると少々イライラする。少年側も、もう聞きたくないみたいなことを言い出すのだが、それでは話が進まんだろ……。
 思春期の少年の物語なのだが、実のところ父母との別れは年齢を経てから直面する場合も十分あるので、特有ではなく普遍的なお話でもある。自分が父母との別れに直面したら……ということに対して、もう大人目線で向き合い方を考えてしまうところに、子供らしいわがままを言われるから面倒臭く感じてしまうんだね。そういう意味では、もういい大人であるビリー・クラダップをこのポジションに据えていた『ビッグ・フィッシュ』の凄さが際立つところでもある。
 師匠筋のデル・トロオマージュというよりはティム・バートンオマージュっぽく、先日の『ミス・ペレグリン』に似たロケ地なんかも登場して、意図しないながらもそっちに寄せてしまったのかな。

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 若干話運びがかったるいのだが、実は裏に語られないもう一つの話が隠されていて、その構造にラストで気づかされた瞬間に一気に深みが増すような作りになっている。メインのお話は後半にちょい説明的になっちゃうなど、今一歩という感じでもどかしかったが、語られぬ母と祖父の関係の深みでバランスをとる。

 いや、途中でリーアム・ニーソンの写真が映るから、リーアム=おじいちゃんであり、リーアムの声の怪物もまたおじいちゃんなのであろう、というのはぼんやりわかるのだな。ただ、肝心の少年はおじいちゃんに会ったことがないはずなので、怪物に祖父の面影を見るという展開はあり得ない……と思わせておいて、ああこう落とすのか、と。そこが見えて来ると、この家族の物語にも大いにうなずかされてしまうのだ。

 途中のいじめっ子のいかにもステレオタイプな嫌な奴感から、半端な共感を突きつけて来る傲慢のめちゃくちゃムカつく感じに変わるのも面白かったですね。あとはやっぱりシガニー・ウィーバーお祖母さんの家具を無茶苦茶にするシーンな……あそこも祖父さんがけしかけたのだと思うと、なかなか味わい深い。いや、祖父さんは生きてたらさすがにそんなことさせないと思うのだが、「でっかくて自由なパパ」は物語化して誇張されるとこうなっちゃうのかもしれないね……。