"日が照っていた、12年前も"『6才のボクが、大人になるまで。』
リンクレイター監督作。原題は『Boyhood』(少年時代)。
生まれ故郷のテキサスから、母と姉と共にヒューストンへと引っ越した6才のメイソン。人生を変えるべく大学教師になろうとする母には様々な出来事が起き、メイソンもまた父との再会や、新たな義父との生活を経て成長していく……。
今年になってから『ビフォア……』シリーズ(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140130/1391083756)もチェックして、18年越しの三部作に驚かされたものですが、今作も12年かけて撮影されたという代物。もちろん『ビフォア……』と同様、ドキュメンタリーではなく、歴とした劇映画。同じ役者を12年使い続け、両親役のイーサン・ホークとパトリシア・アークエットもどんどん歳をとり、主人公である少年も6歳から18歳に!
役者を変えないと、こうも時間経過は鮮明になるのか、と、改めて映画の嘘とリアルを思い知らされます。また、演出のテイストもじわじわ変わってきて、後半は『ビフォア……』で完全に確立された会話劇としてのスタイルもより濃厚に。父との会話、彼女との会話、また密度が濃いよ。
最近、映画では見なくなったパトリシア・アークエットのリアルボディがすごい! 先日、ひさしぶりに『トゥルー・ロマンス』を見直す機会があって、まあでかい乳じゃのお、と思っていたのだが、そのバストはそのままに、他の部分もどんどん巨大化し、すごいおばさん体型になっていく。シングルマザーとなった彼女の人生の苦労、その後の男選びにことごとく失敗し続け、一念発起し教師を目指す……。大学教師が安パイかと思ったらアル中だったり、頼れる男かと思った元兵士もイマイチ。しかし、その男たちのそれぞれに対して、「あっ、ちょっといいかも」と思っちゃった瞬間が描かれているのだが、いささか恋愛体質なキャラがやっぱりパトリシア・アークエットには似合うのよね。
一方のイーサン・ホークのリアルなうらぶれ感、これは『ビフォア……』シリーズでも散々目の当たりにしてきたわけだが、改めて見ても枯れっぷりがすごいね。芽の出なかったミュージシャンで、時々会うだけの子供目線から見てると、現在何の仕事をしてる人なのかさえよくわからない。この人、一生このままなんじゃないかな……と心配になってしまうのだが、そのうち再婚して別の子供作って、ああ、なんとか普通の人になれたのか……。
まったく頼れる男じゃないし、要領も悪い。愛情こそいっぱいなんだけれど、弱そうで不器用で……でも、最後に残るのはこの男なのだ、というところに、たまらなく惹かれる。大して取り柄のない自分も、きっとこういう風に生きることならなんとかできるんじゃないか。いや、あるいはそれこそが、最も難しいことなのかもしれないのだが……。
淡々と、親二人、子二人の生涯を追っていくだけ、それだけと言えばそれだけなのだが、普通の映画にはあり得ない一瞬の煌めきが、そこかしこに輝く。この一瞬は十年前に撮影され、もう二度と撮られることはない瞬間なのだと、強く思える。作劇にもまた、こうすればこうなる、こうした結果こうなった、という普通の映画ならある理路がなく、登場人物たちは時に矛盾したことを言い、時に同じ失敗を繰り返す。
だけど、その結末の見えなさこそが、もうアラフォーになった自分も生きている人生なのだな。
このお話は、少年の物語であるのと同じく、両親それぞれの人生の話でもある。あの時もう少し大人になれていれば、あの時もうちょっとだけ言葉を紡げれば、そんな風にどうしても思ってしまうけれど、それがままならないのが人生だし、だからと言って今が後悔の塊かというとそうではない。若い頃に思い描いた理想の通りではないけれど、どうにかこうにか残すことが出来たものもある。それが、二人の子供たちだ。離れて暮らした父と、ずっと共にあった母ではまた感慨も違うが、少年時代は終わり、もうすっかり成長し、童貞も捨てた彼は今巣立つ……。
少年はカメラマンという職業を目指す。ややメタな視点を取ると、映画によって記録される側だった彼が、いつしか記録し発信する側に回る。これは、俳優が製作や監督業に進出したりすることに似ているね。その未来もまた、何一つ約束されたものではないのだが、果たして今作もまたこれからの十二年が描かれるのだろうか? 才人リンクレイターの凝りっぷりに期待したい。
ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)(字幕版)
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