”白髪は鬼か天使か”『マジカル・ガール』


映画『マジカル・ガール』予告編

 魔法少女映画?

 白血病で余命わずかの娘アリシアのため、父親のルイスは彼女の憧れる「魔法少女ユキコ」のコスチュームを手に入れようとするが、あまりの高額に手が出ない。失業中の彼は思い余って強盗を図ろうとするが、その彼の頭上に吐瀉物が降り注いだ……。

 冒頭、頭の堅そうな教師を小学生女子が手品でからかうシーンで幕は上がる。この教師、いかにも四角四面で融通の利かなさそうな、端的に言うともてなさそうな男だが、この男が後にこの少女バルバラに取り憑かれ、画面では描けないようなことをやった挙句にムショに放り込まれ、十数年後の釈放寸前にそれでもなお執着していると知ると、笑ってばかりもいられない。
 それだけで一本の映画になりそうなんだけど、そこは二人の過去は匂わす程度で掘り下げず、観客の想像に任せる。

 白血病で余命わずかな少女が願いを書き留めたノートを見た父親が、魔法少女になりたいという彼女の願いを叶えようとする話が並行して進む。しかし、少女が本当に願っていることはお父さんに側にいてほしい、ということなんだけど、全然話を聞いてないのな、この親父は。
 娘の欲しがっているネットで売ってる一点物の魔法少女ユキコの衣装を手に入れようとするのだが、高値すぎて無理! これも娘に黙って画策してるあたり、サプライズでプレゼントやらプロポーズやらしたがるダメな男そのものじゃあないかね。だから嫁にも逃げられるんだよ(父子家庭になった経緯は不明である)。
 結局、金が全然ないので、偶然出会って肉体関係を持ったバルバラを行き当たりばったりに恐喝する。図書館の本に金を挟ませる、というセンスがすげえ古い!

 このダメな感じのお父さんに、バルバラに執着する元教師が主役級なのだが、バイプレーヤーもなかなかの変態揃い。バルバラの離婚寸前である夫、医者で見た目は普通っぽいのだが、登場時の仁王立ちなどいかにもサディスティックかつ強権的。元教師もそうだが、何かバルバラという女には、こういった男を惹きつける何かがあるのだろうか。
 その証拠として、一時期、高級娼婦になっていたらしいバルバラの全身には多数の傷が刻まれている。これを作ったのは、果たして顧客たちか、この教師なのか、あるいはそれ以前からいた親か誰かなのか?
 その肉体はその筋では知れ渡っていて、バルバラが恐喝された金を得るために自らを売る男は、車椅子の大金持ち。この男はこれら変態男たちの究極的な存在で、金に任せてサディスティックな趣味を満たしている男。直接的な描写はここでもないのだが、車椅子であるということは自らも性的に不能であり、それを加虐によって満たしているのであろうか……?

 ファム・ファタールもの、と言ってしまうと何だか気の毒になるぐらいに変態男に囲まれているバルバラは、どことなくキャラがぼんやりしていて、メンタルの薬を飲んでいることも含めてつかみどころがない。
 モチーフとして使われる「黒蜥蜴」など、監督は江戸川乱歩に影響を受けたそうで、なるほど、男の一人称で非常にぼんやりした絶世の美女像に執着する変態的な話を思い出す。「白髪鬼」みたいな、もう若くもない男の復讐劇のようにも見える。

「えっ、寝たの?」
「う、うん」
バキューン!

というクライマックスのイヤさ加減も素晴らしいですね。

 ストーリーが偶然の重なりと常識外れの妄執によって明後日に飛んでいくあたり怪作感が強いが、対象的に落ち着いた撮影がまたそのギャップを強調してて面白い。派手さはないがその「変」な感じを堪能できる映画ですよ。