”殺人者の楽園”『チャイルド44』
トム・ハーディ主演作!
1953年ソビエト連邦。全裸で胃を摘出された少年の遺体が次々に見つかるが、殺人は資本主義の病であるとする当局は事故として処理し、まともに捜査しようとしない。友人の子が殺されたことから捜査官のレオはなんとか上層部を動かそうとするが、逆に不穏分子の疑いをかけられ、さらに妻の逮捕を命ぜられる……。
これはちょっと前に原作を読んでいたので、映画化を楽しみにしていた。が、なんか評判悪いな……。
まあその、冒頭から原作を読んだ人は「あれっ?」と思うこと間違いないのだけど、一部大幅に設定が変えられているのだよね。原作でもその部分は「サプライズのためのサプライズ」という風に思えたところでもあったので、まあ変えても大筋に影響はない……はずなんだけど、やっぱりインパクトがなあ……。「えっ、誰……?」ということになっちゃうわな……。
赤の広場で「スターリンはバカだ!」と叫んだら、国家元首侮辱罪と国家機密漏洩罪で死刑にされた、というジョークの時代。主人公は第二次大戦の英雄で、今は秘密警察の一員である男。それ以前の飢餓の時代を経験していた、という設定が映画ではちょっと見えづらいか。原作を読んでいたから背景もよくわかったが、未読だとちょっと苦しいのではないか、という気もするところ。
そんな時代に起きた少年を狙った連続猟奇殺人事件だが、「殺人はアメリカみたいな資本主義の病だから、ソビエト連邦には存在しませんよ」という建前のもと、全然まともな捜査がされないのである。主人公の同僚の息子が犠牲になるも、まったく動かず……。
数値だけを目標とすると、必ず過大、過小に申告して帳尻を合わせようとする者が現れるのは、本邦でも企業の粉飾決算、学校のいじめや体罰の隠蔽などで明白であるが、社会体制が行き過ぎればついには殺人さえなかったことにされてしまう。それはもはや見て見ぬ振りに留まらず、実際に起きたことを見過ごし犯人を野放しにする、社会による犯罪への加担であるとさえ言える。
そんな社会状況をつぶさに描くことで、ディストピアでは犯罪捜査もトリッキーにやらざるを得ないということをエンタメとして展開させつつ、アンドレイ・チカチーロをモデルにした猟奇殺人とも対峙させ、その二重の敵との対決を見せる……というのが原作の骨子で、まあ映画は何とかその体裁だけは保てているかな……。しかしながら全編英語、上述の犯人の設定の変更、ひたすら小物臭全開のジョエル・キナマンなどがノイズになって、何もかもがどうにも真に迫って来ない。学校の先生役なのになぜかどつき合いでロシアの荒くれ男に勝ってしまう『ドラゴン・タトゥーの女』ことノオミ・ラパスも謎だ……。
さらに犯人像を変えたことによる「えっ、誰……?」感は冒頭で危惧した通り致命的で、それだけでは盛り上がらないから結果としてしょうもない殴り合いシーンを持ってこなくてはならなかったクライマックス。痛い! 正直、原作の犯人設定も「サプライズのためのサプライズ」の域を大きく超えるものではなかったと思うが、そういうのも娯楽作品にはやっぱり必要だわな。
ゲイリー・オールドマンまで配置して、「続編作りたいです!」と色気むんむんなラストがなにやら悲しい一本でした。続編はまた小説で読むか……。トムハ主演作としては、「家庭より仕事」の『オン・ザ・ハイウェイ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20150724/1437751437)に対して、「仕事より妻」を選んじゃう男役であるところが面白かったですね。
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