”急に女っ気ができたので"『やさしい人』


 ギヨーム・ブラック監督作。


 ブルゴーニュ地方、トネール。パリから田舎へと帰ってきたミュージシャンのマクシムは、一人暮らしを楽しんでいた父親と同居を始める。だが、若くもなく、かと言って老いもしていないマクシムにとってはしっくりこない生活だった。ある日、地元の情報誌の若手記者メロディに取材を受けた彼は、彼女に惹かれるものを感じる。恋人と別れたばかりのメロディに、マクシムは急接近するのだが……。


 またまた恋愛をこじらせたおじさんのお話! ということで、これはフランス映画。パリから故郷へと帰ってきたミュージシャンが、父親と二人暮らしの中で、取材に来た若い女の子とできてしまうのだが、彼女にはサッカー選手の元カレがいて……。


 「やさしい人」というのは単なる邦題(原題は地名)なのだが、主人公はそろそろ禿げ散らかしつつある中年男。パリは合わない……と言っているが、作曲家としての名声も知れていて、田舎で細々と活動する毎日。夜遅くまでやってるので、早起きしてサイクリングに出かける元気老人である父親とは全然生活サイクルが合わない。
 地元のローカル新聞から取材に来た女の子と仲良くなり、そこはフランス人だから割合さっさと付き合いだす。なんとなく『アデル』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140425/1398433802)ちゃんみたいにぽやっとした感じの子で、いやあフランスの今時女子ってこんなのなのかね、と思わせる。お父さんも「ちょっと若過ぎないか?」とか言ってるが、自分も四十代の頃に若い子と浮気したのでまあやむなし。あっという間にのめり込む主人公。しかし、彼女がだんだん素っ気無くなるまで、それほど長い時間はかからなかったのであった……。


 お父さんが、早くに奥さんとは死別して、今は人生をエンジョイ中の元気老人。ちょくちょく同年代の女性とも付き合い、恋愛も大好き。サイクリングしたり、youtubeで昔のテニスの動画見たり、気が若い。これもフランス野郎の定番か。それゆえに、ガンになった奥さんを放り出して浮気した過去なんかもあるわけで、それを息子に非難されていたりする。息子は、父が新しい女と付き合うたびに毎度ちょっと気に入らなくて嫌味を言ってみたりして……まあマザコンの残滓が残っているわけですね。


 一時期は若い子と旅行に行ったりいい関係だったのが、突然連絡が取れなくなる。着信無視、留守電無視、顔を合わせても知らないふり……。側から見てれば、ああこれはダメなパターンだ……終わったな……と言うかすでに終わっている……とわかるのだが、本人だけは認められない。あちこち彼女の行きそうなところに出かけて人違いしたり、元カレのサッカー選手のプロフィールを見て無意味に写真を拡大してみて……いや、それをやってどうすんの?と思うのだが、でもやってしまうその気持ち、よくわかる!
 そんな折に届いた匿名のメールには、「ロリコン」「ペドフィリア」との罵倒が……! あいつか! 送ったのはやっぱりあいつなのか!


 最近は修羅場を避けるのが定番なのか、延々と無視が続いた後でやっとメールが届く。メールでの別れ話って、ほんとに何かやってる時に唐突に来るんだよね。「元カレとよりを戻しました」ということなのだが、まあまあ長い文章になってるし……。すべての動きを止めてぽつねんと手元のスマホに目を落とし続けるビジュアルがリアル。それをずーっと引きのショットで撮って、「なんかあった……?」とチラチラ見るお父さんまでを画面に収める。
 いや〜、映画とはいえ、咽び泣きというのを久しぶりに見た。それも超長いし……。バッキャロー、男は黙って風呂場で泣くもんだよ。


 恋愛大好きのフランス野郎でありながら、割り切りが早くなるまでは至っていない、要は「大人の関係」をまだ築けないこじらせ中年男は、若い子との感覚の違い、ジェネレーションギャップにも悶々とさせられる。自分は電話、向こうはメール。こっちは会いたいが、向こうは終わったと思っている……。そんな距離感のずれも、違う世代と付き合うことのリスクであるのだな。


 かつて自殺を考えた友人の持つ拳銃の隠し場所を知っていた彼は、密かにそれを持ち出す……。嫉妬に狂った彼はついに一線を越えるのか……?
 気持ちはわからんでもない、でもどうしようもないのがわかっているので、なおさらいたたまれない気分になる。もちろんハッピーエンドはないわけだが、彼の行く末は……? こじらせ男はおフランスの大人になれるのか……?
 『フルートベール駅で』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140407/1396861634)の麻薬を捨てるシーンにも通じる部分と、本当に最後の最後、彼が音楽家であることが地味に効いてくるあたりが良かったですね。

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