"捜査は裏を取りましょう"『記憶探偵と鍵のかかった少女』


 マーク・ストロングが初主演!


 問題を抱え、家庭内で軟禁状態にある16歳の少女タイッサ。彼女の扱いを巡って割れる両親の意見に、客観的な判断を下すために呼び寄せられたのは、人の記憶の中に入り込む探偵ジョン・ワシントンだった。謎めいた言動を繰り返すタイッサと徐々に打ち解け、その記憶の中に入っていくタイッサ。果たして、彼女は殺人未遂を犯したのだろうか……?


 スタンリー・トゥッチの心の中の悪が追い出され実体化した姿、なんて言ったのは誰だったか(私だあ)、それぐらい悪役俳優だったマーク・ストロングさん(『ロビン・フッド』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20101230/1293672340)、『キック・アス』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20101223/1293018867)etc……)ですが、地道にキャリアを積んできたのが評価されたか、ついに主演です。


 記憶探偵? うわーっ胡散臭い!と思ってしまうところですが、今作におけるこの職業、龍平の『悪夢探偵』と違ってフリーではなく、企業に所属し胡散臭い目で見られながらもそれなりの認知度を獲得している、という設定。
その彼が依頼を受け、かつて亡くした妻と同じ名の、アナという少女の記憶の中に入る。同級生の殺人未遂や教師との性的関係など、数々の疑惑を疑われるアナを、義理の父親は施設に入れるのが妥当とし、実の母親はそうではないことを証明して欲しいと願っている。


 二人の親の立場が、まさに少女に向けられた二つの視点そのものであり、観客は記憶探偵と共に、その脳裏に浮かぶ映像を手掛かりに真相に迫って行く。……んだけど、まあその二択で、作り手がどちらに誘導したいか、どちらの真相が魅力的か、というと、それはね……ということで、だいたいオチは見えてしまうかな。また、マーク・ストロングさんはあくまで記憶探偵であって、そういう超能力こそあれど、セラピストでもなく医者でもなく、また記憶以外のことに関しては探偵ですらない……というど素人ぶりをもがっちりと発揮してしまうのであった。


 また、中盤からチラチラと記憶の改竄について匂わせられるのだが、それは記憶探偵が観ている映像=観客の観ている映像は、事実と異なる可能性があるということに他ならない。このことが示唆していることもまた明白であり……って、この設定がOKなら、基本なんでもありになっちゃうよなあ。劇中にフェアに手がかりが示されているか、という本格ミステリ的な見方をすると、がっかりするパターンの映画。
 それはそれとしても、夢で見た映像の裏を全然取らない記憶探偵は、さすがに無能過ぎて逆にリアリティ面でアウト、という感じがするな。卒業アルバムはもっと早い段階で確かめないとダメだろ……。


 製作に『アンノウン』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110508/1304842033)、『フライト・ゲーム』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140922/1411365704)の監督ジャウム・コレット・セラが名を連ねていて、なるほど「自分さえも信じられなくなる」サスペンスの系譜にこれも加わるのか。しかし毎度毎度、面白いのは途中までで、ラストに腰がへなへなになるような脚本の映画を濫造しちゃうのは、彼自身が何かに取り憑かれているのだろうか?