”デキるワルは出世する?”『フィルス』


 マカヴォイが悪すぎる映画!


 スコットランド警察の悪徳刑事ブルースは、警部への昇進レースで同僚を蹴落とすことに余念がない。折しも発生した日本人留学生殺人事件を解決し、出世の足がかりにしようと張り切るブルース。目撃者がいないはずの事件だったが、ブルースは手がかりをつかみ、容疑者たちに目星をつけるのだが……。


 『ビトレイヤー』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130515/1368627897)がもはや記憶になく、『トランス』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20131111/1384171601)が奥歯に物の挟まったような感覚を残してくれた今年のマカヴォイ事情。来年の『X-MEN』でもやさぐれることが確定している彼ですが、その前に特盛のソースカツ丼のような映画が来たぜ! 超ワル! R-18! こいつは胃もたれ必至だ!
 ……と思って観に行ったら、意外や今年の三本の中じゃ一番すっきりまとまった映画でびっくりしちゃいましたね。


 やりたい放題、クスリも決めまくってる汚職警官のマカヴォイさん、女にも不自由せず出世欲むき出しの悪のカリスマ……なのかと思いきや、そんなかっ飛んでる前半を超えた辺りから、雲行きが変わってくる。
 ヤクやってるから妄想混じりなのかな、と思ってた映像が、実はかっちりした伏線で、とっちらかって見えた話は後半に向けて急速に収束して行く。
 序盤、出世争いをしている幹部候補の同僚たちを、マカヴォイが人物・能力評をしてばっさばっさと切って捨てて行くシーンがあり、ここが出色の面白さ……なのだが、そこで登場する全員が、その人物評に収まらない素顔、人間性を見せていく。それが描き出すのは、評した側……主人公の内面、内実だ。その評とは違う人物像が発露するたびに、主人公マカヴォイの思惑は裏切られ、薄っぺらさを露呈していく。
 悪徳刑事の仮面は虚仮おどしに過ぎず、内面のか弱さ、脆さが垣間見え、虚飾に満ちた私生活も暴かれて行く。その根源には少年時代に弟を失った過去が……。そして、悪のカリスマにもっとも相応しくない、小さな善意までもが露出する。


 いやいや、思いの外、内省的な映画で、この前に見た『ルームメイト』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20131205/1386245019)、次に見た『THE ICEMAN』と、立て続けに幼少期のトラウマをネタにした映画を見ましたよ。やはり原作ありだからか、最初から最後まできちっと設計されてて、映像もそれにしっかり付いて行っている感じ。


 マカヴォイさんの演技力も如何なく発揮され、真剣さにコミカルさをブレンドした個性がしっかり出てましたね。
 クズはなぜクズなのか、クズは最初からクズなのか、クズがもし自分がかつてはクズではなかったことに気づいてしまったらどうすればいいのか、それでもクズなりの筋を通す意味とは……。まあ思いのほか真面目な映画で、下ネタとかがむしろ印象に残らなかったですよ。