”新世紀の始めに”『猿の惑星 新世紀』(ネタバレ)


 シーザーが再登場!


 あの人類への反乱から十年、シーザーは仲間たちと森に逃れ、独自の文明を築きつつあった。一方、人類は蔓延するウイルスにより次々と数を減らし、文明を失いつつある。ある日、電力を供給するために水力発電所を求めて、人間たちがシーザーらの森へと立ち入る。一触即発となる両者。森へ近づくなと警告するシーザーに対し、人間の一人マルコムは、和解を求めるが……。


 第一作から十年、ということで、猿インフルの蔓延によって人類は壊滅状態、森に逃れたシーザーたちは、一大コミュニティを築いていた……。冒頭、シーザーたちが鹿を追っているシーンから始まるが、これは前作のチンパンジーたちが人間に追われているシーンと対になっているのかな。
 数百ぐらいの猿がいる一方で、あの前作クライマックスの舞台になった橋を隔てて、同じぐらいの規模の人間たちの生き残りが集まっている、という構図。偉大なる指導者シーザーの下で、猿たちは平和に暮らしているんですな。


 前作から、もっと状況は変化しているのかと思っていたのだが、妙にこじんまりとまとまっているのね。ものすごい局地的な話になっている。
 ここから、二つの人種のコミュニティの対立が始まり、それぞれが共存を志す勢力と撲滅を望む勢力に分かれていく。英雄シーザーの「猿は猿を殺さない」という理想は、人間に対する怒りに満ちたコバによって破られ、猿が猿を殺し、同族や人間を檻に入れる。タブーは容易く破られ、猿もまた、かつて人が繰り返した愚かな争いと差別、恐怖と殺戮の歴史を繰り返す、という構造。これはいずれ、猿が地球を支配し人間を奴隷とする未来へとつながっていくのであろう。


 うーん、いや、まったく筋は通っているし、人物配置も行き届いているのだが、真面目くさりすぎて全然面白くない。良き夫、良き父となったシーザーがもうすっかり偉人然としているのだが、革命家であったはずの彼がすっかり保守的なキャラになってしまっているのがその原因か。変に状況が停滞しているからで、こうなると「かつての英雄」も普通の人になり、打破されるべき現状そのものになってしまう。
 英雄の治世を揺るがすコバは、実に卑劣で矮小なキャラなのだが、奴隷制度の被害者として当然のこととも言える反面、ある意味小市民的な復讐心、恐怖心、偏見によって、かつての英雄が堕つ……という展開は、まさに歴史の必然。世界を動かすのは凡人の価値観で、一握りの英雄は役目が終われば退場するのみ……。が、映画は主役のシーザーが最後に勝ってしまうので、逆に時計の針が戻っていくような感覚に捉われるのであった。


 一科学者の発明により、人類の歴史が大きなターニングポイント、ブレイクスルーにさらされる、というスケール感を描いた前作(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20111014/1318343207)に対し、おらが村を守るべ、というちっちゃい話になって、センス・オブ・ワンダーがなんら感じられないところも苦しい。猿の話だから何だか真新しいもののように見えているが、同じ話を人間同士でやったら、なんとも地味なお話になっているはずだ。


 いや、大筋ではまとまったいい映画だと思うのだが、雇われ監督マット・リーブスらしく、上乗せになるセンスも作家性も感じられないところがなんとも物足りない。また人間側のキャラも魅力がないよねえ。ゲイリー・オールドマンもひどい無駄遣いで、これならまだ『ウォームボディーズ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20131003/1380808849)のマルコビッチの方が深みがあったろう。ジェイソン・クラークのひたすらいい人な役回りも単にポジションでしかなくて、ジェームズ・フランコと同列に語るには、もう少し多層的なキャラクターにしてほしかった。またオランウータンと漫画を読むところとか、電気が通って懐メロがかかるあたりとか、記号的演出スレスレという感じで、苦虫を噛み潰したような顔になってしまったよ。


 前作にさりげなくあった笑いの要素が綺麗さっぱりなくなっているのも、どうしたことなのだろう。カルチャーギャップものとしての側面も薄れているし、「三本の矢」のようなシュールなギャグも、「Nooooooo!」のような決め台詞もなくて寂しい。そしてやっぱり、我等が飼育係ドラコ・マルフォイのような、救いようのないオモシロキャラが必要なんですよ。


 人間との戦争はこれから本格化していく……ということを示唆して映画は終わる。しかし、指導者シーザーの立場のどっちつかずなところも、まだ次回作の方向性が決まっていないことを示しているように感じられる。彼はそれでも平和への道を模索するのか、それとも絶望と諦観の中で我が種のために人間を支配する事を選ぶのか。
 次回のオープニングは、猿が人間を狩っているところから始まるかな? 今作も三部作構想っぽいが、やはり二作目は中だるみするのか。完結編に期待したい。