"動くな、死ね、甦れ"『トランセンデンス』


 デップさん主演作!


 人間の知能を越える人工知能を開発しようとする科学者ウィル。しかし反テクノロジーを掲げる組織の凶弾に倒れた彼は、余命あとわずかと告げられる。だが、妻のエヴリンは彼の死の間際、その頭脳の全てを人工知能に移すことに成功する。ネットワーク上に拡大した彼は、驚くべき進化を遂げていく……!


 クリストファー・ノーラン監督の新作はオリジナルのSFもの、と聞いていたので、当初はこれかと思っていたら、こっちは製作のみでありました。監督してるのは『インターステラー』ね。


 人工知能ものと言えば、つい先日『her』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140707/1404738634)を観たところであるが、今作は生きた人間の脳の情報がサーバー上に移されるというお話。そういう話の構造上、結局は「生前」の発想を拡大するか、あるいはその「生前」へと回帰して行くかにしかならないのだよね。デップさん以外の登場人物も全員がその「生前」を基準に考えるので、人工知能になってからと何が違うのか、ばかりに腐心して、どうもお話が窮屈になっている感あり。
 「人間からコンピュータになったら、もう彼じゃない!」「いいえ、変わらず彼よ!」という対立になるのだが、お互い大して根拠がないまま言い合っている。強いて言うなら妻の方が「女の勘」「夫婦の愛」が根拠なのだから、対立意見側のポール・ベタニーモーガン・フリーマンキリアン・マーフィは何か科学的な根拠を出してくるべきだと思うのだが、こちらも実は「そんなのおかしい」「元のままであるはずがない」みたいな感情的な動機で動いているにすぎないのだな。せっかくいい役者を揃えているのに、全員がバカみたいに見える。『ザ・イースト』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140206/1391604775)みたいな組織もまったく魅力がないし……。


 コンピュータ・デップさんが、ナノマシンを持ち出して人間を治療すると同時に端末化し始めたあたり、なかなかいい感じのおぞましさなのだが、ここらあたりから、A.Iの話なのかナノマシンの話なのかはっきりせえよ、となってくる。さらに『パシフィック・リム』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130711/1373529625)のテンドーさんがデップさんに端末化された挙句、モーガン・フリーマンらに捕まって殺されたそこらへんの話をまったく忘れ去ったかのように美談にして終わるあたり、なんだそりゃあ、と呆れるしかないのであった。


 科学者なんて、そもそも倫理より発展を希求する危ない人種でしょ、という大いなる偏見を映画に投影するなら、デップさんはコンピュータになって人間性が失われたからこんなことをしているのではなく、仮に生身でもこういう能力や権限が備わってたらやっぱりやってたんじゃないかな、というお話にも思える。ますます人工知能やら進化やらのキーワードが薄くなり、結局は愛でごまかすピンボケした映画になるのであった。



 CG加工されたデップさんのやる気のなさは、まあ映画のほとんどが「死んでいる」状態なので、まるで幽霊のような演技ということで納得できるか。序盤の生きてるシーンとは一応トーンが違う演技をしているし……。しかし「shit! 俺は死んだのか!」とか大騒ぎしない時点で、もうそれは人間ではないような気がするね。
 『アイアンマン3』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130502/1367490315)以来、科学者役が板についてきたレベッカ・ホールさんが事実上の主役で、こちらは良かったですよ。まあ期待値ゼロで見れば、死ぬほどつまらないわけではないけど、どうにも見所の少ない映画でした。