”どっちがわたしとチューするの?"『ザ・ホスト』(ネタバレ)


 シアーシャ・ローナン主演作!


 幾多の星を支配下に収めてきた知的生命体「ソウル」。地球もまた支配下に置かれ、地球人は体内への侵入を受け意識を乗っ取られていた。生き残った人類は組織を作って地下に潜るが、その構成員メラニーもまた捕らえられ「ソウル」の侵入を受ける。だが、メラニーは自分の意識を保ち、「ソウル」ワンダラーとの奇妙な共同生活が始まった……。


 すでに宇宙人によってあらかた征服済みの地球。それも『ボディ・スナッチャー』か、最近で言うと『ワールズ・エンド』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140429/1398774209)のような、人間と一体化するタイプの星人で、地球人は大半が乗っ取られて精神を入れ替えられてしまっている。宇宙人同士は争わないので、支配体制が確立された今、地球はかつてない秩序だった世界に……。


 そんな中で、レジスタンスとして戦う地球人がいるわけだが、主人公シアーシャ・ローナンちゃんはその一人。しかし、包囲されてビルの上から飛び降りて捕まった主人公に対し、「骨も折れてないし目立った傷もない。生きたいという力が強いのね」と宇宙人が言っちゃう冒頭で、うわあこれは……と相当に嫌な予感がしたのである。こういうロジック抜きの精神論がポンと出てくる映画は、それをいつ何時でも都合良く出してくるのが明白なのだ。


 そんな主人公に取り憑いた「ソウル」ことワンダラー。宇宙人は温厚でお互いに信じ合う種族、ということになっているが、地球人を追いかけ回すシーカーと呼ばれる人らは例外……なのかな。ここらへんも実に曖昧だが、やはり他の惑星や他者の肉体を乗っ取ろうという生き物は、人間のそれとは違ってもある種の攻撃性の持ち主であることは明白であろうに、主人公に取り憑いた存在であるワンダラーことワンダをいい宇宙人と設定したいがためにわざとぼかしているように見える。シーカーの人たちも「(人間は)そのうち死に絶えるよ」とか言っていい加減で、本質的にこういう仕事にはむいていないらしいことは示されるが、それならそれで侵略の初期段階はいったいどうしていたのかなど、新たな疑問がどんどん湧いてくる。人知れず忍び寄り知らぬ間に同化されてしまうような、真綿で首を絞めるような恐怖感を設定しているべきだと思うが。まあそれらに対しては「世界観を楽しめばいいのに」というラノベらしい気の持ち用が要求されるのであろう……。


 いい加減、色々と諦めたところで、宇宙人ワンダに乗っ取られた我らがシアーシャ・ローナンちゃんが脳内のもう一人の自分とお話しながら、レジスタンスの中で農作業したり温泉に入ったりの日常を送る展開を鑑賞するモードに突入! 人間であった頃の恋人(マッチョ)と、宇宙人になってから惚れられた男(文系)の板挟みになり、さあどちらとチューするのか、チューしたとしてそのチューの相手である自分はどちらなのかという、思いっきりどうでもいい展開が連発される……。このコント感、何かに似てるなと思ったら、こないだから見てる『エクリプス』他トワイライトシリーズだよ。原作者が同じだから当然なんだが……。


 これらを、最近『TIME』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120223/1329991911)みたいな微温いSFしか撮れなくなっているアンドリュー・ニコルが監督している……ということで、何だそのお互いが必要としあってるかのごとき結びつきは……。目を見たら誰が宇宙人に寄生されてるか、地球人のままかがすぐにわかってしまうので、レジスタンスの人たちは外出時にサングラスを着用しているのである……って、サングラスをかけてたらその時点でバレバレだよ! 言うなれば逆『ゼイリブ』状態。このあたりもぬるさの極みではないか。
 シーカーの衣装のダサさも珠玉ですな。銀ピカで、ピッチリというほどきつくもない、なんとも微妙なデザインで、これを宇宙人らしいと思ってるなら安直に過ぎる。ビジュアルイメージの錆びつき具合も病が深いな……。
 で、手術で無理やり宇宙人をひっぺがしたら「虐殺だ!」と非難され、こういう価値観の反転と相剋は重要だよね、と思ってたら、優しく分離する方法があっさり提供されるのであった。うーん、なんだこりゃ。


 かくてめでたくシアーシャ・ローナンちゃんの身体を離れた宇宙人は、今度はクレジットなし出演のエミリー・ブラウニングに移動するのであった。この肉体は、前の宇宙人が離れた後、目覚めなかったそうで、いやあ、このお人形さんみたいな顔と演技の女優はいかにも自我なくしてそうでぴったりですね。けっ、都合いいな!

ガタカ [Blu-ray]

ガタカ [Blu-ray]