”父は6人、母は2人”『ファイ 悪魔に育てられた少年』


 疑似親子もの映画。


 かつて起こった誘拐事件で、人質となりそのまま行方不明となった少年。だが、彼は死んではいなかった。誘拐犯のグループによって育てられ、成長していたのだ。犯罪者である「父」たちと同じ道を歩む岐路に立たされた少年ファイは、ある日、自分の過去を知る……。


 五人の殺し屋集団に誘拐され、ファイと名付けられた子供が、そのまま彼らに育てられて暗殺者としての技術を身につけている、というお話。思春期を過ぎて大人に近づき、少しずつ自我に目覚め自分の境遇への疑問を抱き始める。


 リーダー格の男を演じるのがキム・ユンソク。非情かつ合理的なリーダー……のようでいて、どことなく狂気じみた、ウエットな執着心がのぞく。それが歳を経るにつれて表出の度合いを増しはじめたようで、メンバーもそれを危惧し始める。
やっぱりカタギの子供を育ててる状況ってのは殺し屋さんにしてみれば異常で、身の回りの世話をさせる女を置いているからそれに子育てを任せられたという側面はあるにせよ、冷静に考えればリスク以外の何物でもないわな。が、最もそういうことを嫌いそうな冷徹なリーダーが、なぜか最も執着しているというところが、お話の裏につながるポイントになる。


 カタギとは縁遠くて普通の生活など望めない(それゆえにメリットを享受している)連中なのだが、妙に子煩悩だったり親切だったりするのは、子供が降って湧いて突然父親という立場になるお話や、擬似家族ものとも共通していて、根底にある家族への憧れや父性へのコンプレックスなどは普遍的な問題なのであるなと思わされる。というのも、ここのところ、『チェインド』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140421/1398003197)、『とらわれて夏』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140510/1399722763)、『プリズナーズ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140513/1399992410)と、誘拐に端を発する擬似親子関係ものを立て続けに見ていることがあり、世の中には女性を孕ませておいて逃げ回ったり、生まれた子の養育の義務を放棄したりする人間がいる一方で、全然家庭を持つような状況にいないのにも関わらず、それでも父親になりたいと思う人間が多くいるのだな、と考えさせられる。


 しかしまあ、映画の基本的な視点は茫漠とした顔のファイ少年なので、あまりそちら方面には切り込まない。序盤、彼の訓練シーンや留学先の模索などが描かれ、彼の立場や行く先の不安定さが強調されるので、やっぱりカタギじゃない奴が五人寄せ集まっても意見もまとまらないしダメだな!というオチになるのであった。
 後半はアクションが加速し、狂気の擬似家族像を描いたシリアスなストーリーとして捉えると、非日常的アクション展開の連発は若干座りが悪く感じられる。まあ最初からこういう映画だと思えばいいのだろうが、それならもう少し訓練シーンなども粘り腰というか、生兵法で無い実際に役立つスキルを身につけさせてしまったということを強調しておいた方が良かったように思う。


 さらにファイ少年の出生の秘密と、誘拐の動機が明かされ、暗殺者VS暗殺者の頂上対決で、まさに父殺しの物語が展開される……。うーん、充分面白いのだが、少々落ちを付け過ぎというか、序盤に感じた異様なシチュエーションの不気味さが、妙に理に落ちてしまったようにも感じたところですね。
 韓国映画に求める要素はてんこ盛りだが、ちょっと満遍なくやり過ぎてしまった感あり。それでも水準以上に楽しめる映画ではあるが……。

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