”おまえらは時代遅れ”『フライング・ギロチン』(ネタバレ)


 冬の中華映画祭り、ラスト!


 清朝の裏で政敵を抹殺し続けた暗殺部隊「血滴子」。だが、次期皇帝である皇太子は、西洋と結んで火器を導入し、時代の刷新を図っていた……。革命闘士のリーダーを捕らえた血滴子だったが、処刑寸前に彼を取り逃がし、逆に隊員の一人である頭領の娘を人質に取られてしまう。そして、追跡の果てに待っていたのは、ある陰謀だった……。


 ジョニー・トー監督の『ゴッド・アイ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140107/1389096517)と、超絶無比の地雷映画『ゴールデン・スパイ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140108/1389182072)とアンディ・ラウ主演作が二作続きましたが、最後の一本はこれ、アンドリュー・ラウ監督。


 清朝の裏で暗躍した最強の暗殺者集団「血滴子」! 使う武器は空飛ぶギロチン! 頭領はジミー・ウォング! 七人の精鋭でチームを組み、反逆者を殲滅する! うわーっ、面白そう! と思うじゃないですか。冒頭はこの七人が清朝への反逆を企む輩を、この空飛ぶギロチンで惨殺しまくります。
 ……しかし、ハイテンションなのはここまで。敵のリーダー格らしい男を捕らえたところ、彼は主人公である七人のリーダー格の男に、「おまえは俺を殺す運命。ただし今日ではない」とうそぶく。この男を処刑場で逃がしてしまい、彼が逃げ込んだ町に自分たちも潜入する……。


 いやいや、あまりに序盤とトーンが変わってしまうので、ちょっと戸惑った。ショーン・ユー演ずる皇帝の側近が登場し、何やら今回の事件に裏があることを匂わせる。陰謀、そして地味な潜入と捜査……えーっと、空飛ぶギロチンの出番は……。
 演出が重厚すぎるせいか、大陰謀が裏で進行してますよーと匂わせるあたりの思わせぶりさ加減さえもが重々しく、謎解きものっぽい軽快さがない。活劇とサスペンスが重々しさに押し潰されてしまっておる。


 終盤、陰謀の正体が明らかになり、用済みとなった「血滴子」の悲哀と時代の変化を描く段になって、やっと演出と画面がマッチしてくる。しかし、主演の人も含めて「血滴子」七人の面子がことごとく地味で、主人公と紅一点を除いたメンバーの区別がまったくつかない。果たして、顔がコンパチなその他五人の皆さんは次々と散っていく……。
 ここらへん、ほんとに哀れを極めるというか、崖の上からの銃撃に対して、「喰らえっ、空飛ぶギロチン! ……くそっ、届かない!」というシーンを、これでもかこれでもか、と何回も繰り返すから笑った。無駄な努力、というか、時代についていけてない悲哀ですね……。
 さらに頭領ジミー・ウォングさんの、「鉄砲などいらん! 空飛ぶギロチンさえあれば!」という現実の見えてなさ、夢へのすがりっぷりが無惨で、それに対して皇帝の「おまえは助けてやるって言ってるんだからさ……わかれよ、はっきり言わせるなよ、頼むから……」という表情が最高でした。


 さすがにここらへんは結構胸に来るものもあり、切り捨てられる者たちの悲哀が伝わってくるところであった。残った二人の内、クリス・リーも壮絶な最期を遂げるのだが、二人が潜伏した村もまた清国軍の襲撃を受け、壊滅に陥る結果に。主人公は自分の空飛ぶギロチンを彼女に託すのだが、撃ち倒される村人を守るため、それを抜いて「うおおおおお!」と立ち向かうクリス・リー! 直後、一回も飛ばす事のないまま蜂の巣に!
 やむを得ず、華のなさを主題歌熱唱で補う得意技を、『孫文の義士団』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110312/1299929052)に続いてまたも炸裂させるクリス・リーであった……。いや、自分が息絶えるシーンでほんとに熱唱をバックにかぶせるからビックリしたよ。今回の主題歌はジェイ・チョウとコンビ作ったそうで、お顔に華がないけど歌は上手過ぎる人たちでしたね。
 終盤のその村への攻撃シーンで、教祖他の村の男たちがゲリラ戦の準備をして堂々と待ち受ける、という決め決めのシーンがあるのだが、そこでもいきなり大砲の砲弾が雨あられと降り注ぎ、何もしないまま叩き潰される悲哀。弱者の戦略への期待感の外しっぷりがすごい。大砲強過ぎ。せっかく主役とヒロインが残ってるんだから、「血滴子、最後の戦い」があるかと思うんだが、それも全くない。


 構造的には『処刑剣』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110530/1306672092)と『セデック・バレ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130529/1369745972)を混ぜたようなお話になってるんだが、あの二作に対して、ここまで娯楽性をぶった切ってアンチカタルシスにしちゃうとさすがに面白くないな……。で、オチはと言うと融和を無条件に持ち上げるあたりも胡散臭い。悪い意味で大作感のある映画でありました。

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