”父なる証明”『失魂』


 大阪アジアン映画祭2014、二本目!


 仕事中に意識を失い、うつ病と診断されて帰ってきた息子が、突如、世話していた姉を殺した。自分は別人だ、肉体を借りているだけだ、と言う息子を監禁した父は、十数年ぶりの彼との共同生活を、最も奇妙な形で迎える……!


 久々にシネ・ヌーヴォまで来て鑑賞。アジアン映画祭は面白い映画が多いのだが、あまりジャンル映画はなくて、特にホラーものは珍しい。しかしまあ、てっきり幽霊ものかと思ってたところ、蓋を開けてみたら昨年の『二重露光』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130402/1364828430)みたいな映画だったのであった。


 トリッキーな画面構成で不安を煽りつつ、料理店から幕開け。『GF*BF』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130331/1364614827)にも出ていたジョセフ・チャンが、仕事中に「病気」になって生家へ担ぎ込まれる。目を覚ました彼は自分を別人と口走り、世話してくれていた実の姉を惨殺! 果たして本人談の通り、別人の霊が乗り移ってるのか、それとも鬱病の一症状なのか。撮り方こそオカルト風味なのだが、超自然的な要素はほぼ出てこない。しかし、神ならぬ身でありもちろん医者でもない者からすれば、結局どちらであろうともどうにもならないことは間違いないわけで……。
 ここでジミー・ウォング演ずるお父さん、娘の死骸を隠蔽し、息子には一服盛って山小屋に監禁! とりあえず鬱病には休養、みたいな医者の台詞があるのだが、治るかどうかもわからんのに閉じ込めて、前向きなのか現実逃避なのか、おそらく本人にも分からない。
 山奥に暮らす孤独な老人の、その生活しか知らない頑固な感じをジミーさんが見事に体現していて、さらに熟練のパワーショベルさばきまで見せる。いや、探しに来た娘の旦那を殴り殺して車ごと埋めてるんですけどね! 不安は抱えつつも精神的にタフであろうとする親父、渋いぜ!
 娘を失い、殺人を犯してなお、元に戻るかもわからぬどころか自分を殺すかもしれない息子をただ守りたい……というまさに『父なる証明』的なお話。延々と、何が正しいのかもわからぬもやもやした感覚が続き、話の起伏もないのだが、体験型映画として撮影のうまさなどで間をもたせている。


 しかしまあ、このもやもや感を貫き通しつつ、ちょっといい後味で終わろうとした感じが、結局釈然としない感覚を増幅させて終わるあたり、なかなか難物な映画であった。面白いかと言われるとうなってしまうが、よく出来ているのは間違いないところ。

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