”Speed! Give me what I need.Yeah!”『ゼロ・グラビティ』


 宇宙映画!


 地表600キロの軌道上、スペースシャトルで作業に当たっていたクルーを、あり得ない事故が襲う。ロシアの衛星爆破の余波である破片が降り注いだのだ……。シャトルは打ち抜かれ大破、エンジニアであるライアンも漆黒の宇宙に放り出される。辛うじて、飛行士のコワルスキーと合流したライアンだが、酸素は残り少なく、ヒューストンとの通信も取れなくなる……。


 アルフォンソ・キュアロンが、無重力を映像化! ということで、IMAX3Dで鑑賞してきました。高いところが苦手なので、最初の方でカメラが下向いて地球を見下ろすアングルになると……高いっ! こわっ! 落ちそう! そんな映像にかぶさって、ジョージ・クルーニーがいつものしゃべり過ぎ、女好き過ぎ、でも頼れる男をアピールアピール。雑談を装って個人情報を引き出し合う、ちょっと気がある男女同士の会話で、手際良くキャラのバックボーンを見せていく。
 こんな雑談しまくってたら、日本や中国なら怒られそうな気がするが、そこはアメリカだし……で納得しよう。実際のNASAではどうなのかは一般観客の預かり知るところではないのだから、これこそが映画の嘘というものなんですな。


 限界まで無重力の表現に挑んだ映像のリアルさも、まさに初めて観るような光景ばかりで、果たして実際に宇宙行ったらこんな感じに見えるのか、炎や水滴はこんな挙動をするのか、などなど、わからないながら圧倒されっぱなし。やー、でも昔読んだガンダムの設定資料集にあった、手足を動かして身体(機体)の向きを変えることで、推進剤を使わずに方向転換するAMBAC機構みたいなアクションも観られて、ちょっと感動しましたよ! あの理論は実際はほぼ冗談みたいなものなので、製作陣はびた一文意識していなかったと思いますが……。
 そんな中で、一人残った主人公に次々と迫る危機、危機、危機の連続。パラシュートが絡むとか、冗談のような消化器など、フィクションらしいピンチやアクションを立て続けにぶちかまし、手に汗握らせてくれる。


 宇宙飛行士のような超エリートは、本来、雲の上の存在なんだろうが、サンドラ・ブロック演ずる主人公、身体絞ってプロフェッショナル然とした雰囲気はあるものの、操縦その他は畑違い。なので、我々一般人に近い立場でマニュアル読みながら操縦するという、思い入れしやすい状況を作り出す。
 いや〜、そもそもサンドラ・ブロックの一般人が、初めて動かす乗り物を「オーマイガッ」言いながら必死こいて運転し、順番にぶち壊しまくっていくというのは、出世作『スピード』シリーズを思い出させますね。女好きでおしゃべりで頼れる男を演じたジョージ・クルーニー同様、もっともシンプルにハマるキャラを演じているわけですね。言うなれば、今作こそがサンドラ・ブロック主演『スピード3』であったわけだ。バス、船と来て、今度は宇宙船だ!


 登場人物も設定も削ぎ落とされてシンプルの極みだが、小道具も多数配置してあって、作中で語られること以外にも色々とドラマに想像の余地があって面白いよね。ロシアや中国のドラマも観てみたいし、2時間ぐらいの長さで、5人ぐらいが順番に死んでいくパターンも観たい。
 今後の宇宙空間、無重力表現のロールモデルになるべき映画で、今作だけに終わらずに、この技術を使った『エイリアン』シリーズや、もっと馬鹿馬鹿しいシーンも観たいものである。ぜひとも『さよならジュピター』の無重力セックスシーンをガチで撮ってもらいたいものだな。原作通りにやれば、シックスナインしながら手足を左右に広げてクルクル回るとか、後背位で宇宙船のごとく銀河に向かって前進していくとか、抱腹絶倒のシーンが満載になるはずだ……!


 しかし、「予備のバッテリーがあった」は、幻で本当に良かった。あの再登場シーンでは、これは夢だよね! ね! ね! そうであってよね!と内心絶叫してしまったよ。あれが本当ならこんな絶賛ムードじゃなく、『ハドソン・ホーク』のスプリンクラーばりに叩かれていたに違いないよ!