"心の壁を超えて"『ウォーム・ボディーズ』
ゾンビが恋愛する映画?
近未来。ゾンビとなり、自分の名前も忘れてしまった「R」は、空港に住み、時折人を襲いに出る、そんな日常(?)を送っていた。ある日、壁の外に出て来た人間たちと遭遇した「R」は、その中の一人であるジュリーに恋をし、彼女の元恋人の脳を食ったことでその気持ちを強めることに。仲間を失って一人になったジュリーを、自分の住む飛行機へと連れ帰る「R」。それこそが、ゾンビと人間の対立の構図を揺るがす出来事の始まりだった……。
躍進著しい『X-MEN ファースト・ジェネレーション』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110612/1307871121)の若手組ですが、今作はニコラス・ホルトが主演。野獣じゃなくて、始まってすぐにゾンビ役! なんでゾンビになったかはよく覚えてないし、本名も不詳。体重も絞っていて、こりゃ見た目からして大変そうな役だわ。
そのゾンビが恋に落ちるヒロインはテリーサ・パーマー。知らん……と思ってたら『アイ・アム・ナンバー4』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110721/1311243263)のナンバー6か。美味しい役だったのに覚えてなかったのは、やっぱり映画が面白くなかったからだな。
そんな、ゾンビが恋に落ちてどうするねん、死んでるのに、という話なのかと思いきや、なんと愛の力で生き返る、というとんでもない設定。普通ならよくあるファンタジー話だが、ゾンビ映画に持ち込むのはアウトだろ……と観る前は思っておった。
が、そのワンアイディアをファッションとして使っているのではなく、きっちりとストーリーの軸として消化しているあたり、先日の『アップサイド・ダウン』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130924/1379935418)のグダグダっぷりとはまるで違いましたね。
今作のゾンビは、人間でなくなってしまったようでいながら、まだその要素を多分に残している。ウイルスやら放射線やらの、ゾンビになった外的要因が今作では語られないのだが、そこには内面から来る人間性の喪失を隠喩として表現する意図が見え隠れする。乱暴にくくるとオタクだの引きこもりだの、心に壁を作り、人として人とつながることができず、活力を次第に喪失していく人々。
そしてそういう人々に対して物理的に壁を作り、自分たちとは違うモノとして規定する者たちがいる。壁を隔ててゾンビと人間として対立しているが、人間のように振舞っている者たちもまた、そうして隔てること自体によって自らの可能性を閉ざして追い込んでいるのだ。
人間性を完全に喪失した者たちは「ボーンズ」となり、触れ合おうとするものをただ憎むだけの存在になってしまう。彼らもまた「ゾンビ」と対になっているわけだが、では「人間」と対になっているのは、見た目こそ変わらないけれど、ヒロインの父や元恋人のような、敵を倒すことしか頭になくなった人間なのであろう。
そんな壁の「こちら側」の人間たちを指揮しているのがジョン・マルコヴィッチということで、うわあ、これは安定の悪役だね、と思ったのであるが、「ゾンビだって人間に戻れる」という性善説よりの映画ゆえに、見た目からしていつもどおりいっちゃってるこの人も、頑なになっているものの悪人ではないキャラとなっている。マルコヴィッチはやっぱり声がいいなあ。怪人にしか見えない人だが、どこでまともな部分を見せるかというと、その声の良さと台詞の抑揚。帰還した娘を抱きしめて「死んだと思っていた」とつぶやくシーン、短いけれど印象深かったな。
なんかジェームズ・フランコのパチモンみたいなやつが出てるな〜と思ったら、デイヴ・フランコという弟だったのね。顔もそっくりだが、二番手、咬ませ犬としてキャリアをスタートさせているところまで同じだ! 兄貴はスパイダーマン(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130103/1357212276)はおろか、猿(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20111014/1318343207)にさえかなわない男として世界に認知されたが、弟はどこまで二番手道を極められるか注目である。
主人公たちの恋愛によって話は転がって行くのだが、ゾンビ側にも人間側にもそれぞれ「親友」ポジションの人がいて、彼らが同調することによって物語は大きく動く。一時期話題になった「裸踊り」の動画もそうだったが、パイオニアに続く者の行動こそが重要というところもおさえられているね。
筋も設定もヌルヌルの甘々で、いささか単純に過ぎるような気もするが、「壁」が崩れ落ちるラストシーンは多くのものを想起させ、何だかんだで感動的なのであった。思ったよりも好感触で、拾い物でしたね。
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