"上へ向かって落ちて行こう"『アップサイドダウン 重力の恋人』


 キルステン・ダンストジム・スタージェス主演の恋愛もの。


 正反対の方向に引力の働く双子の惑星。富裕層の住む「上」の世界のエデンと、「上」に搾取される「下」の世界のアダムは、高い山の上で出会い、愛し合うように。だが、二人は引き離され、十年の時が過ぎた……。技術者として成長したアダムは、ある日、「上」の企業トランスワールド社の人材募集番組に登場したエデンの姿を見る。アダムはかつて叔母に伝授された発明でもってトランスワールド社に採用されるのだが……。


 恋愛は障害が大きい程燃え上がる、と聞くと、なるほどそうかもしれない、と思うのだが、この場合の「大きい」は「多い」では決してないのだよな。重力が逆転している二つの世界の男女が出会い、恋に落ちるも引き裂かれ……というお話。まあ予告編のビジュアルだけ見ても、この重力問題だけでもえらい大変だよな、と思うのだが、それだけでは終わらない。


・二つの世界は重力の方向が違う
・一方の世界の富裕層がもう一方を搾取しているので、身分制度が発生している
・重しを付けてもう一方の世界に行くと、しばらくすると加熱して燃え出す
・女は記憶を失っている


 ……いや、障害多過ぎるだろ! 「これ入れたら面白そう!」「これは定番でしょ!」と、まずは「ユニークな世界観」にしようと設定だけ作ったけど、それに合わせて物語を走らせたら、すごい勢いで無理が出てきた感がある。いや、こういう世界の中で単に生きて行く人たちの話を描くだけなら良かったのだろうが、全てを「恋愛のための障害」と設定したのが良くなかった。障害である以上は解決しなければならないからだ。
 ここで全てを一発で引っくり返すような、驚天動地の一手を主人公ジム・スタージェスが打ってみせる……と、さぞ格好良かったのだろうが、やっぱり設定が先走っているからか、あるものは何となく自然に解決し、あるものは友達が解決してくれて……と、主人公の発明やら愛やらが介在してこそいるものの、実に都合良く展開していくように見えてならないのである。


 設定自体は面白そうと思ったのだが、ファンタジック風味とSF要素の混在って、要は設定を詰め切れない時になんとなくごまかすための物なのだなあ……。まだ練ってあるな、と思った部分が、後の御都合主義でどんどん曖昧に片付けられていってしまうあたり、実にもったいない。


 ラストの「まあ、愛の力やねんから、そういうことでええやん!」と言わんばかりのやっつけのような終わらせ方にはちょっと呆然となってしまったが、「体内で液体が混じる」ということが重要なのかな! いつやったのかさっぱりわからなかったけど、やっぱり逆方向の重力に引っ張られるカップルが、いかにしてセックスするかはちゃんと見せないとダメだよね!


 かくして全然ダメな映画ではあるのだが、別に嫌いというわけではありません。会社内の展開とかはまあまあ楽しめた。ションベンが上に向かって落ちていくところとかな!

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