"おい、サントラを用意しとけよ"『ムーンライズ・キングダム』


 ウェス・アンダーソン監督作。


 島のボーイスカウトのキャンプから脱走した、はぐれ者の少年サム。彼の目的は、一年前にこの島の教会で出会い、恋に落ちて以来文通し続けてきた少女スージーと共に駆け落ちすることであった。キャンプの装備を持って、島の奥地の入江を目指す二人。ボーイスカウトのウォード隊長や、島の警官のシャープ、スージーの両親らが総出で捜索するが……。


 まあ、今までならスルーしてたジャンルだが、地元で観られるということで行ってきました。
 好きか嫌いかと言うと興味薄いと言うしかないタイプなんだが、これは良かった。主役のガキども、いやいや少年と少女のふてぶてしい感じがいいではないか。自分のこれぐらいの年の頃、別に浮いた子供ではなかったけれど、優等生でなかなかはっちゃけることができなかったのを思い出す。ああ、これぐらい弾けられたら良かった。うぜえ大人なんか振り回してさ、大冒険に出るんですよ、うん。メガネなんかかけて下ぶくれでオタクっぽいキャラなのに、この行動力。しようもない理性になど縛られず、感情に従って行動する素晴らしさ。
 早々と大人の事情の走狗となったかのような他のボーイスカウト共にも、一つ思い知らせてやらねばならん。時には血を流すことも必要ですよ……(笑)。


 対する大人がボーイスカウトのダメ隊長エドワード・ノートンに、不倫中の警官ブルース・ウィリスということで、共にそんな一瞬の輝きなど忘れてしまい、日常に埋没してしまっている人たち。少女の両親、ビル・マーレイフランシス・マクドーマンドも同じだ。時にはそんなつまらない大人の日常を、徹底的に掻き回して盛大に波風立ててやらんといけませんよ。それを子供がやらなくて、誰がやるというのだ!(いや、別に大人がやってもかまわんけれど)


 全カット、そのままスチール写真になりそうな、小道具からカメラワークから凝りまくった決め決めの構図が炸裂し、監督の世界観に観客を囲い込んで逃がさない。一個一個ぽいと出されたら「ふざけんな!」「いい歳して!」「頭の中身が小学生か!」「かわいいもの好きもたいがいにしろ!」と怒られそうな道具立てばかりなのだが、それらが一分の隙もなく積み重ねられ、「まあ観て行きなさいよ」とセットでさらっと差し出される。その向こうで自信ありげなウェス・アンダーソン……。


 その綿密さはラストまで一切衰えず、エンドロールまで完璧に締める。サントラがほしくなるね。ほんとにこれは「好き」か「嫌い」かがまず問われる映画で、嫌いな人は最初から最後まで鼻についてしようがないはずである。今作は話やキャラクターが好みだったから良かったが、他の話だったらどうだろうな。


 16ミリで撮ったものをDLPで観るこの感覚も面白かった。これは実際に16で観てみたいところでもあるな。

ムーンライズ・キングダム オリジナル・サウンドトラック

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