“未来を変えろ”『私を月に連れてって』
OAFF2018『私を月に連れてって / Take Me To the Moon / 帯我去月球』予告編 Trailer
大阪アジアン映画祭2018にて。
高校でバンドのボーカルを務めていた李恩佩の葬式で、仲間たちは再会した。歌手のオーディションに合格し日本に渡ったが、結局成功できなかった李恩佩の人生の不遇を振り返り、どうしようもない亀裂を確認する彼ら……。だが、失意のまま仲間に別れを告げた汪正翔は、突如、1997年にタイムスリップする……。
今年の台湾ナイトに供されたのは今作。『私の少女時代』のビビアン・ソンが主演。
高校時代、一緒にバンドをやっていたメンバーの中で、ヒロインだけが成功し、小室哲哉プロデュースでデビュー、日本で活躍している……はずだったのだが、30歳を過ぎた今、結局彼女はアルバム一枚出したきりで鳴かず飛ばず、事務所の掃除をし、風俗街のバイトで食いつなぐ毎日。台湾から訪ねて行った主人公に、「もう帰ろうかな」と弱音を吐く。諦めるな、絶対成功する、と、はっぱをかける主人公だが、数年後、彼女は帰らぬ人となったのであった……。えーっ、暗いよ、何だこの話……しかし、ここからキラキラしてた過去を述懐して懐かしむのか?と思いきや、不思議な力で高校時代、1997年にタイムスリップした主人公が彼女の未来を変えようとする、という展開に。
97年と言えば『タイタニック』の公開年で、自分は20歳だったからこの主人公たちより二つ上ということになるな。スラムダンクと将太の寿司が台湾ではめちゃくちゃ読まれ、JPOPも大人気だった頃……。
しかし主人公はヒロインが成功しない未来を知っているので、オーディションに行くのを邪魔して、芸能界デビューをさせないようにしようとする。作中でも引用されるターミネーターの役割を果たすことになるのだが、オーディションが延期になったと嘘の電話したり、母親にちくったり、カセットテープを傷つけておいたりと陰湿な手口を連発するので、バレた後の反応が怖い!
「夢はかなわない」という現実を知ってしまった大人が、前途ある若者の未来を邪魔するという構図が重なって来て、なかなかにいたたまれない。もうちょっとタイムスリップした時期などのシチュエーションが変われば、今度こそ成功するようにサポートする、という展開もありえたろうが、決して前向きな展開にはならんのである。
恋愛感情も当然ながら絡んでくるので、明言こそされないが、オーディションに受かって日本に行かなければ自分と付き合って共に人生を歩んでいたかも……という願望もある。女性個人の社会的成功と自分の恋愛感情が両立しない、という事実もさりげなく匂わされ、結構しんどいテーマがちょいちょい絡んでくる。
しかし、決して映画自体が暗いものにならないのは、安室奈美恵ら当時の小室サウンドの表現者たちのどこかアスリート的な懸命さがバックにあり、楽曲自体のエモさがあって、そこに夢や希望を抱いた若者たちの悲喜こもごもは、成功失敗の差こそあれ一つの時代を築いたし、作中で事故死する台湾のアーティストと共に、多くの人の心に残ったという事実があるからではないかな……。
台湾の青春映画におなじみの若干気恥ずかしいぐらいのキラキラっぷりも健在で、ちょっと掘り下げきれなかった感もある中、サブキャラもいい味が出ていますね。今年のABC賞はこれで、来年のテレビ放送も決まりましたが、エンタメとしての完成度は高かった。何とか劇場公開もしてもらいたいところだが……?
- アーティスト: サウンドトラック(サントラ)
- 発売日: 2015/10/20
- メディア: CD
- この商品を含むブログを見る
- 出版社/メーカー: マクザム
- 発売日: 2014/04/04
- メディア: Blu-ray
- この商品を含むブログ (3件) を見る