”懐かしき輝きが見える”『グランド・ブダペスト・ホテル』


 ウェス・アンダーソン監督作品!


 ベルボーイだった少年ゼロは、今やホテルのオーナーであるゼロ・ムスタファ。すっかり寂れたホテルに今も留まる彼は、取材に来た作家に、ベルボーイだった頃の物語を聞かせ始める。華やかだった時代と、当時のコンシェルジュ・グスタフの物語を……。


 『ムーンライズ・キングダム』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130212/1360665623)は、ガキが主人公のお話でありましたが、今回はホテル支配人のおじさんレイフ・ファインズと、ボーイの少年のお話。ホテル屋の矜恃と過去の栄光と伝統、古き良きヨーロッパの価値観を、それらがもうなくなってしまった今から、成長したボーイが回想する。


 豪華キャストすらもおもちゃ箱の中の一つ一つといった体の完成されたスタイルで、好きな人にはたまらないであろう映像美は今回も健在。固定されたカメラで二次元的に動くケーブルカーを捉えた画面など、まさに洗練の極みなんだが、高度に発達したウェス・アンダーソン演出はもはや古いテレビゲームの横スクロール画面と区別がつかなくなっているような気もする。スキーとそりの追跡シーンなど、ファミコン時代の縦スクロールから、スーファミ時代の背面視点のようで、最近の金かかったゲームが映画的な演出をガンガン入れてカメラを動かしまくっているのと対照的な逆転現象が、ウェス・アンダーソン映画では起こっているのだ……といい加減なことを言ってみるのであった。


 まああながち冗談でもなく、場面転換や物語の進行など、ファミコンアドベンチャーゲームを見ているような味わいがあり、決まった役割を割り振られた登場人物たちの挙動がそれをより印象づける。現代の映画を見ているのに、まるで『さんまの名探偵』をプレイしているような感覚……。途中では、ソリレースのミニゲームが!
 待望の「処刑人」役を演じているウィレム・デフォーが良かったですね。今回の残酷描写を一手に担う人で、お話を動かしていく実行犯役。


 回想で語られるレイフ・ファインズの役が面白く、前作『ムーンライズ・キングダム』で子供が担っていた奇矯さを、立場を入れ替えて大人である彼が持っている。ただ、それもおそらくは大人にとっての「子供」という過去と同じく、今では失われてしまったものを示しているという点で共通するのだろうな。
 ホモソーシャル的と言うか、男の友情と古き良き信義の話でもあるのだが、ボーイ君がコンシェルジュと師弟関係のようになり、彼のホテルを受け継ぎつつもどことなくピンとこないまま今日まで来てしまったような感覚が面白い。これがジゴロと純愛野郎の違いか。世代と人種の違いも無論あるし、やはりその価値観は滅ぶべきさだめであったのだろうか。その光景は小説として残る……。


 個人的には前作『ムーンライズ・キングダム』の方が好みでありましたなあ。でもまあ、ラストは良かったし、よしとしたい。

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