"息絶えるまで戦え"『孤島の王』


 ノルウェー映画!


 1915年、ノルウェーのバストイ島。非行少年の矯正施設に、船乗りだったエーリング少年が送られて来る。反抗的で、脱走を試みるエーリングに対し、教育係を命ぜられた模範生のオーラヴは、卒院が近いことから最初は彼をうとましく思っていたのだが、次第に心を通わせるように。そして、ある事件をきっかけに、少年たちの怒りは急速に高まり……。


 北欧にて実際に存在した少年向け矯正施設と、そこであった事件を題材にした作品。
 矯正施設というけど、イメージとしてはほぼ学校。全寮制、年齢層広め、労働が過酷、日常的に体罰が行われている。さらにおぞましい事実が明らかに……ということになるわけだが、二十世紀初頭の話であるものの、さほど昔の話には思えない。現代日本においても戸塚ヨットスクールがあり、そこで自殺者が出て、殺人が行われ、創設者が実刑を受けたにも関わらず今もなお存続している。100年前のお話であるにも関わらず、「昔、こういうひどいことがあったんですよ」という文脈では捉えられない。現在もこういったことは平然と世界各地で温存されているのではなかろうか。


 タイトルや内容は物々しいが、反面、学園もの要素も強い。新たに施設に送り込まれて来る二人は「転校生」の位置づけだし、その転校生が元からいる優等生やマッチョな悪ガキと対立し、やがて友情が芽生えていく展開は、まさにフォーマット通り。映画は上品で、おぞましい虐待もほとんど絵では見せないぐらいなので、少年たちの関係もあまりやおい臭は感じられないけど、妄想するぐらいはいいよね!


 主人公である船乗りだった少年の語る「銛を三本打ち込まれた鯨の逸話」によって、結末を暗示させながらストーリーは進む。施設からの卒業を間近に控えた優等生が彼に感化されていく過程が丁寧に描かれ、それがやがて施設中に伝播していく。それは少年たちの変化と言うよりも、本来秘められたもの、自由への渇望の発露だ。スカルスガルド演ずる院長が王様だ、という意味のタイトルかと思っていたのだが、「誰もが自分自身の王である」という意味がこもっていたのだね。


 大人キャラも立っていて、施設の長を演ずるステラン・スカルスガルドの安定ぶりが素晴らしい。高潔ぶっているのだが、自らそれを示す機会があったにも関わらず保身に走る、圧倒的なスカルスガルドクオリティ。いや、この人ほんとにこんな役ばっかりだから! 彼と寮長、寮長と掃除夫の人間関係も注目どころ。ここらへん、完全に『猿の惑星 創世記』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20111014/1318343207)ともかぶるあたり、悪く言えばフォーマット通りなんだが、やっぱり権力があるからって偉そうにしてるといざ逆転した時に大変な目に合うんだよねえ。越えてはならぬ一線というのももちろんあるし。


 雪と海に隔てられた孤島のロケーションが素晴らしく、北欧ならでは。クライマックスに島に起きるある変化と、それを象徴するヘラジカの存在、舞台設定がラストにつながる気持ち良さもいいですね。突き抜けたものは感じなかったが、隅々まで神経の行き届いた秀作であった。