"斜め後ろから注視せよ!"『さよなら渓谷』(ネタバレ)
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田舎の街で、男児が殺害され、母親が容疑者として逮捕される、という事件が起きる。事件を担当していた週刊誌記者の渡辺は、捜査終了と共に引き上げるのだが、隣家に住む尾崎という男が強姦事件の前科によって事情聴取を受けたと聞き、慌てて取って返すことに。尾崎の過去を掘り返す渡辺は、強姦事件の被害者であった女を探すが、行方は知れない。一方、解放されたはずの尾崎は、妻の証言により逮捕され……。
ところで真木よう子って誰だっけ、見たような顔だな ……と思ったら『修羅雪姫』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110527/1306412979)の伊藤英明の妹役だった子ではないか。あの映画、全然台詞なかったし、そもそも何回も見返しているわりにアクションシーン以外ほぼすっ飛ばしていたので、全然気づかなかった。あと『ワイルド・スピードX3』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120830/1346299758)にもちらっと出てますよ。『モテキ』? 知るか!
暑い中、愛欲を貪る隣の夫婦は最初事件と無関係に思えたが、夫の方に強姦事件を起こした過去があることが明らかになり、隣の女との関係を疑われる。この冒頭、「なんかお隣は大変そうねえ。それはそれとしてセックスしよ」という顔をしてた関係ない隣がいきなり当事者になってしまうあたり、実に丁寧に作ってあって上手いと思いましたよ。前科があるということで取り調べを受けた夫の担当をしていた大森南朋演ずる記者が事件の謎を追う……。
この大森記者も、嫁と関係が冷えきっているのだが、取り調べを受けた男がかつて将来有望な野球選手だったことを知り、膝を痛めてアメフトを諦めた自分の境遇と重ね合わせ、同情する。……んだけど、その同情と共感が、実はこの男の表層しか捉えていない薄っぺらなものだったことが、これでもかこれでもか、と明らかにされるのである。
徐々に強姦事件の細部が明らかになるが、その集団強姦に関わった四人の内、三人はそれなりに社会的地位を築いている一方、唯一この大西信満演ずる尾崎という男だけが、以前の仕事もやめて片田舎に引っ込んで貧乏暮らしをしている。少年野球しているガキどもをじーっと眺めてたりして、未練がありありな感じ。
さて、四人の強姦犯の中で、唯一彼だけが贖罪意識を抱いているのだが、それはなぜなのだろう。彼だけが前途有望な選手であり、「野球」という夢を断たれるという社会的制裁を受けたからか。大きな罰を受けたがゆえに罪の意識を抱いた、というのも今ひとつしっくりこないところではある。
途中のレイプシーンはきっちり映像で描かれてるのだが、別に一人だけ引いているわけでもなく、いかにも当然と言わんばかりにカジュアルなまでにやらかしてるしな。「性善説」と「性悪説」が並立している、というよりは、「性悪説」で通底されている中の異物という印象の大森というキャラですが、なんで彼だけこんなに悔いているのかがよくわからない。いや、そういう人が一人ぐらいいないと世の中は闇だけど、単にそうである、というだけですませてしまうのも、少々物語としては説得力に欠けないか。
さて、取材が進むに連れて、真木よう子演ずる尾崎の妻の正体も明らかになる。突如、「夫と隣の女とが関係を持っていた」と証言した彼女の真意とは?
まあ勘のいい人なら、途中からだいたい想像がつくのではないかと思うのだが、これが実はかつてのレイプ被害者なのだな。もはや現世での幸せを望めないと絶望した女に唯一残されたのは、加害者の一人でしかなかった……というえげつなくおぞましい話。男の側も社会的地位や未来を捨てて彼女を追いかけ、冤罪で陥れられてもただ耐えている……という求め合いながらも傷つけ合うような歪さ。
物語は、そんな関係性を否定するでも肯定するでもないし、そもそも当事者以外にそんな資格はない……としたいのだろうが、どこか、
「真木よう子となら不幸になりた〜い!」
という目線を感じないでもない。男の贖罪意識がどうもお話上都合いいうえに、野球愛とかで妙に同情を誘うように描かれているところも気持ち悪いし。
でさあ、あの乳がさあ……やっぱりさあ……いや、肝心なとこは見せてないけどさあ……。
私設刑務所CHATEAU D'IF 第一法廷にて……
検察官
「被告人は、体当たり演技と称しながら乳頭部及び臀部の露出を避けており、その日和見主義は言語道断、極刑に相当すると思われます!」
弁護士
「いえ、裁判長! 映倫の指定、及び今後のイメージを鑑み、局所的に露出を抑えたことは否定いたしませんが、斜め後ろアングルから見た際のボリューム感は依頼人のみがなし得るものであり、その迫力を失わずに激痩せ演技との両立を果たしたことは、ただ見せればそれで「体当たり」であるかのような風潮に一石を投ずるものであります!」
裁判長
「当法廷は被告人を無罪と致します!」
歓喜の涙を流す真木よう子。法廷の外に掲げられる「勝訴」の文字……! おめでとう、おめでとう……! いや、演技はすごかったし、入院中の激痩せ顔なんかも、まさに鬼気迫るものがありましたよ。
しかしこれ、男女の業、悲劇が生んだ不可思議な関係、というよりも、インドやイランなどで起きた、強姦されたり顔に硫酸かけられた女性が犯人と結婚するしかなくなる、という狂気じみた事件を思い起こさせるんだよね。日本における女性蔑視も、ともすればそうした構造を生み出す、というあたりが、本当は大きな問題のはずなのに、何か隠し味程度になってしまっている。で、それで社会的地位を失い「傷物」と結婚するということで男の側も責任を取った、みたいな受け取り方をしてはいかんわね。それで一人の女性の人生を破壊した罪が消えるのか、という話で。
他の三人のレイプ犯やら元旦那やらがことごとくゲスい中で一人だけ贖罪意識を抱く男と同じく、婚約や夫婦関係の破綻を描くだけでもはや「幸せ」は望めないとされる女の側の描写も、こういう筋に持って行きたいがため、という感じで、いささか一面的に感じたところ。
ラスト、女は男の前から去るが、それは「許し」や「解放」などではなく、行動と裏腹な「追って来い」というメッセージである、という解釈を聞いて、深く頷いたね。ただ、二人の行く末はいったいどこなのか、この先、無間地獄のように関係が続くにしてももう一展開も二展開もありそうで、今回の話などさわりなのではないか、という気もした。逆に言うと今作だけでは踏み込みきれてない消化不良感があった。
映画としては充分面白いし、原作も多分小説の筆致で読ませるんだろうけど、それはあくまでメロドラマ的な、フィクションの面白さであって、社会的な問題や人間の心理の深いところまで切り込めたかというと、少々物足りない印象でありました。観てないが『悪人』もこんな感じかね?
大森南朋演ずる記者が狂言回しとして話を進行させて行くのだが、ミスディレクションにもなっている彼の「普通の男の価値観」があまりに浅くて薄っぺらいので、逆にストーリーにブレーキをかけてしまっているようにも思えた。最初から最後まで、鈴木杏といっしょに「わかんねー、わかんねー」言ってて、「なんかわかんねーけど、俺は嫁さん大事にしよっと」って、それはなんかちがわくないですか。
最後の質問もあまりに無神経というか、結局のところ「真木よう子と不幸になるためだったら、またレイプしますか」と言ってるようで、やっぱり着地点はそこなのかよ! こうなると真木よう子の熱演もあの乳も、全てが「女の魔性」の表現のように思えてきて、やっぱり真木よう子に萌えたい男が作った都合いい話であるような気がしてきたね。この程度で社会派ぶるなよ!
- 作者: 吉田修一
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