"ぶっ放せ、男子力"『大拳銃』


 『へんげ』と併映の短編。


 倒産寸前の鉄工所を抱えて、途方に暮れていた縣の前に、妻からの伝手で霧島と言う男から拳銃密造の仕事が持ちかけられる。高額な報酬に目がくらみ、弟と共に密造を始める縣。工程は困難を極め、期待の報酬もなかなか支払われない。だが、いつしか二人は銃作りそのものにのめり込んで行き……。


 観に行く前の電車でid:yosinoteさんと、『ガール』の吊り広告に書いてあった「女子力アップ映画」というコピーに関して話していたのだが、彼女曰く「女子力ってよく言うけど、男子力ってないよね……?」。


 ……いや! あります! 男子力! ただそれは女子力のごとく「アップすれば幸せになれますよ〜」などと喧伝されるようなものではなく、むしろ低下させて折り合いをつけていくべきものなのではないかと思う。
 男子力とは、鉄オタが朝早くから線路に貼り付いたり、特定の野球チームに熱狂したり(『二番目のキス』)、フィギュアやガレキを蒐集したりするような行為に象徴されるものであり、夢想的でファンタジーを追い求めるような力であり、ほどほどにしておくと楽しいけれど、あまりこじらせると身を滅ぼすものだ。


 ストーリーは拳銃の密造に関わるもので、ヤクザの要求で違法な銃造りに手を染める職人という構図は、一見、騙した加害者と騙された被害者のようだが、事態はそう簡単ではない。危険、違法と知りながら困窮に負けて結局作ってしまうことの犯罪性はさておくとしても、主人公の工場主がマニアックな職人気質を発揮していつか銃造りにのめり込んでしまう姿からは、いつしか騙された被害者の立場を超えた偏執性が立ち昇る。タイトルの『大拳銃』が指す通り、その偏執性はやがて依頼にない巨大な拳銃を生み出してしまう。すでに不眠不休、大量の注文を抱えて時間もままならないはずなのに、なぜそんなものを作るの? 出来ると思ったから……やってみたかったから……。その瞬間、ストーリーは凡百の詐欺ストーリーを超え、一種のファンタジーとして昇華されていく。出来ると思ったら作らずにはいられない、そう、これもまた男子力なのだ。


 完成したら、出来上がった直後の工場の中ですぐ試し撃ちをせずにはいられない。巨大な銃身、圧倒的な破壊力。こう言うことを書くと下世話なんだけど、男子というのは当然ながらその「大きさ」にもこだわるものなんだねえ。大きければ大きいほどいい! おっきいと言われたい。でかさを誇示し、その力、量感や固さに酔い痴れたい。
 その大拳銃を見た妻が恐怖に怯え、自分に向けられているわけでもないのにパニックをきたすシーンは、最初ピンとこなかったのであるが、その大きさに注目すれば合点がいく。あまりに大きすぎたら、それは女性を壊してしまうのである。男子は大きければ大きいほど強い、すごいと思っているが、女性から見れば実際はジャストフィットするサイズや機能というものがある。ファンタジーを追い求める男子力そのものもまた同じで、過剰な趣味への傾倒や性的嗜好の発露は、必ずや家庭を破壊する。妻のあの瞬間の恐慌は、支配下にあると思っていた草食系の夫に、自分や家庭を破壊するだけの男子力が秘められていたことに「大拳銃」によって気づかされ、本能的に生存の危機を覚えたからなのではないか。


 銃なんか作らせてパワーゲームやってるヤクザなんてものが、そもそも男子力に取り憑かれた存在なんだけれど、それが職人の中で眠っていたより強大な力を覚醒させてしまい、力が力を呼んで皆が破滅していく。ああ、恐るべき男子力、崩壊を呼ぶ力!
 しかしその男子力の暴走なくしては、妻やヤクザの支配から逃れることはできなかったわけで、やはり男子たるもの、男子力をこじらせてはいけないけれど、いざという時に解放すべく秘めておかねばならんのかもしれないなあ。


 『へんげ』に続きます。

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