"かつて分かたれた地で"『ベルリンファイル』
すっかり国際派となった韓国映画!
ベルリンで「北」の動向に目を凝らす韓国情報院。その調査員チョン・ジンスは、武器取引の監視の最中、CIAやMI6にも記録のない身元不明の「ゴースト」である北の工作員を見つける。モサドの乱入によって破談となる取引現場に踏み込んだジンスだが、あと一歩で「ゴースト」を取り逃がしてしまう。一方「ゴースト」ピョ・ジョンソンは、朝鮮では英雄と呼ばれる男だったが、身内の情報の漏洩を疑い始める。だが、彼の妻に亡命の疑惑が降り掛かり……。
かつて東西に分かれていた「分断の象徴」ドイツはベルリンにおいて、南北朝鮮のエージェント同士が暗闘を繰り広げている、という設定。
先日の『10人の泥棒たち』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130628/1372414360)に続いてチョン・ジヒョンの大活躍を堪能いたしましたよ。今回は傑作『4人の食卓』以来の人妻役だ! あの時はまだ二十代前半だったのに冴えない中年男の妻で、なかなか観ているこちらも絶望感が深かったのだが(なぜ)、今回はハ・ジョンウ演ずる工作員の妻で、夫との関係がギクシャクしつつも大使館勤めをしており、裏では命令で「接待」を強要されているという、なかなかに悲惨な役。『猟奇的な彼女』や『10人の泥棒たち』ではチョン・ジヒョンにしばかれたり騙されたりするマゾヒスティックな快感を堪能できるわけだが、今回は逆に責められる役なので、サディスティックな嗜癖のある人にはこちらがオススメですね!ヒールなのに高いとこから落ちそうになり、慣れない銃をぶっ放し、熱々の銃口を押し付けられて、もう散々ですよ。
モサド、CIAなど多数の国籍の組織が続々と登場してくるので、さぞややこしい話になるかと思いきや、裏で動いている陰謀が「わかってみれば単純な話」であるために、後半に進むに連れてどんどん収束して行く。
ストーリーと同様、アクションシーンや追跡シーンも手際良く、見せ方を絞って整理されていて、複雑さをとっ散らかった風に見せずに処理しているあたりが上手いですね。
格闘シーンも、至近距離で最短で打撃を打ち込み正確に仕留めるスタイルで、上級者同士が相対するとそれでも簡単に決着しない、という、組み立てが面白かった。その零距離で拳銃を持ち出して回避すると、自然とガンカタ風味になるんですよ!
こないだ『容疑者X』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130427/1366987943)で見たばかりのリュ・スンボムがいやらしい悪役を好演していて、いかにも下卑た風に見せながらも目的のために手段を選ばぬ冷徹さも伺わせ、一筋縄ではいかないところを見せる。
ただ、最近のスパイものの常で、この人たちはいったい何のためにこんなことをしているのだろう、もう諜報のための諜報になっているのでは、というおなじみの疑問は抜けなかったね。
でもそこから離れて妻と子と生きる、というところに流れる主人公のドラマは良かった。どんな状況下でも決して諦めず突破口を探る工作員として鍛えられた精神力、洞察力、判断力が、組織に対して牙を剥く、という展開はおなじみですね。
その主人公を危険視し、強敵として睨んでいた韓国側工作員のハン・ソッキュが、事態が変転し利害が一致するに連れて、敵ながら天晴れ、とシンパシーを感じるようになるあたりも定番だけど熱いよ。
最高、とは言わないけれど、充分楽しめました映画。ところでハン・ソッキュの友達のCIA局員役の人は、なんとなく『アマルフィ』の警部を思い出したなあ……。
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