"見てはいけない、追ってはいけない"『赤い影』
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愛娘を水の事故で失ったジョンとローラの夫婦は、ジョンの仕事である教会の修復のためにベニスへとやってきた。ある時、レストランであった霊媒の老姉妹に、娘の姿が見えると言われたローラは、それに感化されてしまう。一方、身に危険が迫っていると警告されるジョンは、取り合おうとしない。折しも、ベニスでは謎の連続殺人が起こっていた……。
ドナルド・サザーランドが若い! やっぱりキーファーよりずっとカッコいいよ。1973年ということで、僕が生まれる前のイタリアが舞台。冒頭から、意味があるのかないのかわからない不安感を煽るような映像が連発し、否が応にもこの先への関心が高まる。ショッキングな娘の死から幕を開け、舞台はベニスへ。いや、ヴェネツィアと呼ぶべきかな、うーん(イタリア語で呼べイタリア語で! ちくしょお!)。
ベニスの湿気った陰鬱なムードがやな感じ。水路が張り巡らされ、どこへ行くのもボートだったりするこの街は、もっと明るい映画の舞台にもなっているのだが、今作では水死した娘を思い出させる水、水、水。いちいち船に乗ったり、水路に妨げられたり、苛立ちばかりが募る。
ちょっと面白かったのは、主人公が全然オカルトを信じていない点で、霊媒師のこともインチキと決めつけてるし、教会の修復をやっているにも関わらず神様さえ信じていないところ。ここ最近の現代の劇場公開作品、やたらとキリスト教原理主義的で鼻につく映画が多かったのに、かえって新鮮だ。
対して妻の方はあっさりと霊媒に感化されてしまう。ただ、この人はそこまで救いを求めていたのか、ということを、夫の方も気づいているのだよね。夫側が理性的に捉えていて、妻側が感情的、という見方もあるが、夫の方も理屈では妻の気持ちを理解しながら、それを「感情的に」受け入れられない部分もあってそれらは単純に分けられるものではないと思う。邦題の「赤い影」に執着するのは夫の方だし、理性的に振る舞おうとする人は、常に自分の感情的な部分を怖れているから、妻に対しても時に過激な言葉を吐いてしまったりしたのだと思う。夫の方も本当に娘の死にショックを受けていて、理性的に振る舞うことでそこから逃れようとしているのだが、内心は常に感情が渦巻いていて、娘の死から立ち直れていないのだ。
そんなことを考えながら観ていたら、本当に悲しい気分になった。おぞましい連続殺人は直接はこれらとリンクしておらず、その辺りも難解に感じさせる要因になっている。終わった後も不思議な余韻を残す秀作。
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