”激動の時代を経て”『国際市場で逢いましょう』

 
 大阪アジアン映画祭2015、十本目。


 朝鮮戦争末期の幼い頃、父と妹と生き別れになったドクスは、母と弟と共に叔母の家に身を寄せる。成長したドクスは、家族を支えるために必死に働き、ついにドイツの炭鉱へと出稼ぎに行くことに。試験を勢いで突破した彼は、初めて異国の地を踏むのだが……。


 クロージングになったこれは、劇場公開もすでに決まってます。ファン・ジョンミン主演作。


 激動の時代を駆け抜けた一人の男の一生を追いながら、戦後の韓国史を振り返っていくお話。上映前に監督が登壇し、「今は豊かになったけど、あの頃、この人たちが支えてくれたからこそ今があるんだ、という感謝の気持ちで作った!」と滔々とテーマを語っちゃったのだが、まあその通りのお話です。正直、観る前は『三丁目の夕日』みたいな話か?とちょっとハラハラしてましたが、簡単に言うと「あの頃は良かった」のではなく、「あの頃は大変だったけど頑張った」ということでした。


 『新しき世界』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140302/1393753744)のファン・ジョンミンが主演で、二十歳過ぎから八十歳ぐらいまでの老人を演じることに。朝鮮戦争中の疎開の折に父と妹とはぐれたエピソードから幕を開け、成長して学業を弟のために断念しドイツへ渡航。そこで炭鉱夫をやっていたけれど死にかけ、現在の妻と出会う。その後、反対されつつもベトナム戦争に従軍してまた死にかけ、片足を負傷し……と、まことに波乱万丈の人生を送る。
 戦後の疲弊した状況から復興するため、海外へ出稼ぎに行かなければ生きていけなかった時代から、ようやく立ち直りつつあったもののベトナム戦争への参戦でさらに疲弊した時期を追い、どうしても苦労する場所に突っ込んでいってしまう性分の主人公の視点から描く。ベースになっているのはそういう重い時代背景なのだけれど、陽性かつ浪花節全開なファン・ジョンミン(と、相棒役のオ・ダルス)の個性によって決して暗くさせずバランスを取り続ける。


 主人公のいい人さ加減に泣きの要素をぎっしり担わせているのだが、骨格になっているのは、冒頭でいなくなる父親との関係。家族のことを託された少年が、必死にその荷物を背負い、自ら夫となり父となり祖父となるまでを追っていく。自分の夢も捨てなければならず、命がけで働き続け、叔母の店も守って、やっと現代へたどり着く。年取ったら頑固ジジイで、息子やらにバカ扱いされているところもナイスだ! 短気で直情的で、なかなかに欠点も多い人でありましたが、妻や家族に支えられながらここまで来た。亡き父に問いかける、自分はちゃんとやれただろうか、という声が沁みる。


 『傷だらけのふたり』と合わせてファン・ジョンミン2連発なわけだが、こちらの方が完成度も高いし大作で、自分は好みですね。もちろん、ファンは両方観るべしだ!

新しき世界 [Blu-ray]

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