”永遠の放浪者”『私は生きていける』

　シアーシャ・ローナン主演作！

　叔母と三人の従兄弟と共に夏を過ごすため、イギリスへと単身やって来たデイジー。警戒心が強く潔癖なデイジーだが、徐々に従兄弟とも打ち解け、やがて長男エディと初めての恋に落ちていく……。だが、世界は動乱の時代を迎え、ロンドンが核爆発で消滅。デイジーらも軍に拘束され、疎開することになる……。

　さて、今年は『ザ・ホスト』（http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140701/1404140776）に腰砕けになったばかりなのだが、今作はさすがにもう少し面白いだろう、と期待していってきました。原作は児童文学だそうですが、果たして……。

　鼻ビアスでパンク、潔癖性のシアーシャ、従兄弟と叔母の住むイギリスのど田舎へとやってきて、動物だらけな上に散らかり放題の家に辟易。そもそも何で急に来たのかよくわからんのだが、母親は昔に死んでいて、父の再婚がきっかけのようですね。最初は毛嫌いしていたものの、一番上の従兄弟とちょっといい雰囲気になり、自分の使っている部屋を母が使っていたことがあったのも知って打ち解けるように……。
　しかし道すがら、軍や警察によって周辺は厳戒態勢にあり、時代は動乱が近いことを示していた……突如、ロンドンが核で消滅！爆風が吹き、直後に死の灰が降り注ぐ……。
　んん〜、死の灰って、こんな数秒後にいきなり降るもの？まあ表現としてはショッキングでいいが、放射能云々は気にもとめられないのであった。

　爆破したのは過激派が……とか何とか言ってるだけで、その政治的、国際的な背景は不明。16歳以下のそういうことを言われてもわからん子たちが主人公なのと、まあそこらへん突っ込み出すと面倒臭いから端折ろう、単にディストピア状況が作りたいだけだから、という作り手の都合ですね。

　シアーシャちゃんは従姉妹の女の子と二人で、男二人と別々に疎開させられることに。しかし前夜に上の従兄弟とセックスして約束した「必ずここに帰る」という約束を胸に、疎開先の軍人の家を逃げ出す。折しも、どこかからの攻撃が始まったりしてその街も安全ではなくなる。このあたりも、シアーシャが帰ることしか興味ないので、全然状況は見えないまま。

　エレン・ペイジを永遠の反逆者とするなら、『ハンナ』（http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110831/1314763545）、『ウェイバック』（http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20121016/1350387945）、『ビザンチウム』（http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20131008/1381227951）etc,etc……とシアーシャ・ローナンは永遠の放浪者と呼べるくらいにあちこち彷徨っているキャラで、イギリスの山野を彷徨うシアーシャは、なかなかハマり役。が、何にせよ放浪のテクニカルな側面が描かれないのと、パンク少女の成長物語としては従兄弟とできた以外にブレイクスルーがないため、実に平板。襲われそうになったり水が飲めなくなったりと定番のイベントはあるが、どれもこれもあるだけ、という印象で、序盤につかんだ「愛さえあれば」のテーゼ以上のものが生まれてこない。その作劇上、連れてる従姉妹もどうも邪魔に見えてくる……。

　過激派もそうだが政府側も描かず、主人公はどこで戦争がやっていても興味なし、ただ家に帰るんだ、というシンプルなテーゼを掲げる。それは物語の薄っぺらさと紙一重で、キャラクターはおろか、作り手まで何も考えてないだけに見えてしまう。ま、それが若さと言えばそれまでだが……。

　『ザ・ホスト』や、観てないけど『天使の処刑人』など、シアーシャはティーンのアイコンと化しているのかな。ただ、どうもどれも脚本が悪すぎで、「無垢なものは無軌道なのではない、自由なのだ」という風には決して見えず、単にやっぱり考えが浅くて無謀なだけの人に見えるあたりが残念ですね。
　イギリスを舞台にしたディストピアものと言えば『28日後…』（http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120330/1333088247）や、『わたしを離さないで』（http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110329/1301394078）があるが、双方と比較するといかにも密度の薄い映画でありました。