"恐ロシア刑務所奮闘篇"『HELL』
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モスクワの石油工場で働くアメリカ人エンジニアのカイル。だが、ひさびさに帰宅したところで最愛の妻がレイプされ惨殺される事件が起こる。必死に犯人を捕らえたカイルだが、判事を買収した犯人は無罪に……。発作的に警備員の銃を奪い、犯人を射殺したカイルには、終身刑が下された。ロシアの最果て「クラヴァヴィ刑務所」に送られた彼は、そこで囚人同士が戦うゲーム「スパルカ」に参加することになるが……。
印象としては『レジョネア』に近いかな。海外ロケ、低予算ながら空間を限定して一カ所で撮影してるから、予算が集中して粗が見えにくくなってる。ヴァン・ダムの刑務所ものと言えば『ブルージーン・コップ』という作品がすでにあるが(タイトルだけだと刑務所ものと思えない……記憶が怪しいような気がしたのでジャケ見て確認したよ)、あれが犯罪者を装って潜入捜査する刑事の話だったのに対し、これは本当の犯罪者。スタローンの『ロック・アップ』の方に近いか。
発端の復讐が早々と終わるので、物語にちょっと求心力がない。ヴァン・ダムが途中まで燃え尽き症候群で惚けてるので動きがない。もう少し、脇役を魅力的に描かないと面白くならないよな。相部屋の黒人が実は主役なんじゃないか、という話になってしまっているところも、中途半端になってる原因。脚本が徹頭徹尾、シリアスタッチで、オカマ役の人とかが浮いてるのももったいない。囚人が共闘するところも、もう少し前振りしとかないと盛り上がらないし、逆に裏切り者ももう少し好人物として描いておかないとサプライズにならんよな。
役者ヴァン・ダムの良さってのは、悲劇と孤独さによって裏打ちされた影を背負った渋み……と本人は思ってるかもしれないけど、実はその本質的な軽さにあると思う。歳も取り、しわも刻まれ、ヒゲも伸び、老け込んでしまったが、実は中身のない過ちを犯してばかりの人間で……ってそれは『その男、ヴァン・ダム』のキャラです(笑)。でもあれが実際の姿を反映してるなら、ムショでも空手教えてたりするあの快活さこそが、その裏返しである良い面でもあると思うんだよね。
打ちのめされ、苦悩する生真面目さよりも、逆境においても明るさを失わず、いい意味で空気読まないキャラの方がはまってると思うし、その点、今作のラストで「後悔しないね」とうそぶくシーンだけはその軽妙さが出ていて良かった。
アクションシーンは酒場の喧嘩スタイル中心で、いまいち面白みに欠けたが、最後は関節技も繰り出したし良しとしよう。しかし冒頭に出た怪物との死闘を期待してたら、ああいう形で肩すかしされるとは思わなかった。ここも実は「軽さ」の部分だと思う。物足りなくもあるが、意外性あってよかったんじゃないか。
一応、ファンは押さえておいてもいい作品、かな……。脱ぎも股割もないけど……。
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