『愛を読むひと』


 戦後間もないドイツ……。15歳の少年マイケルは、35歳の女性ハンナに助けられたことをきっかけに、一夏の間、関係を持つ。情事の前に、彼に本の朗読をせがんだ彼女は、夏の終わりに姿を消した……。
 8年後、思いもよらない再会が待っていた。法科の学生となり、裁判の傍聴に訪れたマイケルの前で、ハンナはアウシュビッツの元看守として被告席に立たされていた。ハンナにとって不利に進行する裁判。マイケルは、彼だけが知っているある秘密が、裁判の鍵を握っていることに気づくのだが……。


 ベルンハルト・シュリンクの『朗読者』の映画化。変な邦題がついてるが、まあこれを「愛の物語」と捉えるには無理がありすぎるだろう……。原作も読んでいるが、うまい小説ではあるけれどあまりにあんまりな自己憐憫的な話、という印象だった。
 さすがにそのままの映画化では話にならないと考えたか、原作に無い設定とエンディングが付け加えられ、多少のフォローは取られている。が、やっぱり語り手に内省の感じられない、もどかしさを通り越して不愉快になる話であることに、変わりはなかった。


 少年から中年になる主人公に何一つ成長や行動の変化が現れず、そのまんま終わってしまったのが小説版。で、小説のラストを経ての「解放」が描かれたのが映画版なのだが、ほとんどあの「一夏」がトラウマ扱い。かかる展開と結末を迎えたのは、主人公の成長のなさゆえとも受け取れるのだが、その原因はあの「一夏」であり、要はハンナの存在がこういう結末を招いたのだ、と言いたいように思える。


 成長せず、彼女の心についに触れられなかった主人公の免罪符が、自分が「捨てられた」ことと、ドイツ人に骨がらみでまつわりついた「ショアー」の罪悪感である、とするのは少々冷たい見方に過ぎるだろうか?


 人は、男とはそんな強い生き物ではない、と言う話だというなら別にいいんだが、やっぱりこのフィクションは、切ない、やるせないと解釈するには、少々気持ち悪いんである。

朗読者 (新潮文庫)

朗読者 (新潮文庫)