『チョコレートファイター』


 『マッハ!』『トムヤムクン』に続く、タイ発のムエタイアクション映画。今回はなんと女性が主役!


 かつてタイのマフィアの構成員だった女・ジンは、日本のヤクザと出会い恋に落ちる。そのことをマフィアのボスに疎まれたジンは、ヤクザを日本へと帰すが、その時すでに彼の娘を身ごもっていた。マフィアを抜けた彼女は、脳に障害を持つ娘を一人で育てる。成長するにつれ、日本人の父にちなんでゼン(禅)と名付けられた娘は、不思議な能力を発揮するようになる。サヴァン症候群……天才的な記憶力によって見たもの全てを自分のものとして吸収するゼン。彼女の住む家の裏手では、ムエタイのジムで選手達が汗を流していたのだった。
 近所の少年モンと仲良くなったゼンは、病に倒れた母のため、超人的な反応でオレンジを受け止める大道芸で金を稼ぐように。その場でチンピラがモンに絡んで来たその時、ゼンの秘められた力が覚醒する!


 タイでとんでもない映画が公開されてる……というのが、去年ぐらいにキャッチされた情報。トニー・ジャーが『マッハ!』や『トムヤムクン』で見せたムエタイの秘技と、死ぬんじゃないかというスタントを、若い女の子がやる映画……んな無茶な!
 事実、4年もトレーニングをつんでの出演だそうで、とりあえず予告編だけはチェック済み。なるほど……これはすごいんじゃ……。


 で、待望の公開となった初日に行ってきました。
 冒頭、主人公が生まれる前から始まり、赤ん坊から幼女時代を経て、中学生ぐらいの子役にスイッチ。で、上記粗筋のチンピラに絡まれるシーン。信じられない打点の空中二段蹴りがいきなり炸裂! あ、違った……これ子役じゃなくて主演女優のジージャーだったわ。21歳らしいが、どう見ても中学生なんですけど……。
 障害者役ということで、まともな台詞は「金返せ」ぐらいしかないんですが(「象を返せ」とダブりますな)、まあとにかくアクションは凄過ぎる。ぞろっとしたスカートはいたままの蹴り技の華麗さと、リアルヒッティングの迫力にぶっ飛び、周囲の障害物を飛び越えながらも飛び出すムエタイとテコンドーベースの蹴り技の美しさ、しなやかさに目を奪われる。中盤以降はヒジなどの手技も飛び出し、ボディへの膝なんかはムエタイそのもの。動き出した途端、全てを持って行く躍動感。
 そしてクライマックスはビルの壁面を伝いながらしばき合う、デスウィッシュスタント! また微妙な高さで恐ろしいんだよ。そこで屈強な男達を薙ぎ倒して行く少女の姿に、もう虜です。


 いや……なんというか……ひさびさに腹の底から興奮した。もう感動の嵐。たった一人の少女が、その肉体一つでここまで人の心を打つんだという事実。しようもないCGやカット割りでごまかした箸にも棒にもかからぬ自称アクション映画が増える中、本当の本物の凄みを十二分に堪能した。素晴らし過ぎる! オレは絶賛の声を惜しまないぞ。


 父親役の阿部寛も、無駄にカッコ良く妙に熱演。なんだこりゃ、この格好よさをどうして日本のドラマじゃ見せられないんだ? 母親役の女優も、非常に雰囲気があって良かった。


 いや〜、これはもう一回見られるね。そしてDVDを買おう……。今年の暫定ベスト1、たぶんこれで決まりだろう。アクション好きは、みんな見るんだ〜!