『バンコック・デンジャラス』


 生まれつき耳が聞こえず、口もきけない殺し屋の戦いを描いたタイ映画『レイン』のハリウッドリメイク版。監督はオリジナルと同じパン兄弟。
 しかし、主演がニコラス・ケイジで、口はきけるそうで……それじゃあ全然別ものじゃん!?


 引退を決意し、最後の仕事のためにバンコクにやってきた殺し屋。だが、引退を前に何かを残したいと思った彼は、連絡役に使った青年に殺しの技を伝授し、自らは薬局の耳の聞こえない、口のきけない女と恋に落ちる。だが、依頼された最後の標的は、思いもかけない人物だった……。


 いや〜、オリジナルで、口のきけない殺し屋が薬局に行くシーンは確かにあって、そこで彼は店員の少女と仲良くなるんですけど……逆だよ! なんで薬局の店員さんがしゃべれないんだよ! 他にもオリジナルの主人公の師匠役をニコ・ケイが担ったり、設定はねじ曲げたけど、何とかオリジナルのエッセンスを残そう努力したのは垣間見える。まあ失敗してるけど……。
 冒頭のモノローグで「オレは人と交わらない根無し草の殺し屋」とニコ・ケイが語るのだが、それが何でバンコクに来て急に宗旨替えしてるのかがつかめない。実は殺伐とした仕事の中で心を病んでいた……ということなんだろうが、それがまったく表現されてないからなあ。
 さて、バンコクでの最後の仕事も、4人も殺さねばならず、いちいち悪目立ちするニコ・ケイ。「ロン毛」「でもちょっと額は上がってる」外国人がいちいち目撃されたら、すぐに捕まりそうなものだが……。さらに、最後に要人を暗殺しようとして失敗するのだが、警護の狙撃手がニコ・ケイを発見した途端に大乱射! あぶねえって! そんな撃ちまくったら市民にも犠牲者出るよ! いや〜、たしかにバンコックはデンジャラスだったなあ……。


 まあそんなこんなで改悪と言って差し支えないリメイクなんだけど、台詞を多用しない演出は健在で、不思議にゆったりと浸って見られる。真っ暗闇でチンピラが発砲し、ノズルフラッシュの閃光で、背後に忍び寄ったニコ・ケイのリアルフェイスが浮かび上がる……わっ、無駄にかっこいいぞ。
 さすがはパン兄弟、ちょっとディティール甘いところも健在だ……。才能はあると思うんだが、なかなかこの双子もブレイクの機会がつかめないねえ……。

レイン デラックス版 [DVD]

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