”赤い旗"『レッド・ファミリー』


 キム・ギドク製作・脚本。


 誰もが羨む、仲の良い家族と思われた四人。老父、夫婦、その娘……。だが、彼らは「北」から送り込まれ工作活動に従事するスパイであった。家族とは形ばかりで、互いをも規律に則って監視し合う四人。だが、本当の家族を人質に取られての過酷な任務が続く中、彼らは次第に体制に疑問を抱き、隣家に住む平凡な家族に心惹かれる……。


 去年の『嘆きのピエタ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130702/1372692105)は面白かったよなあ。さて、今年は『メビウス』という大変そうな映画が公開されますが、その前にとりあえずこれ。


 朝鮮民主主義人民共和国のスパイ4人が、家族を装い韓国に入り込んでいる。実は大きなストーリーらしきストーリーがなくて、単に日常を重ねるだけで物語が進行して行く、ホームドラマのような体裁を取っている。この設定ならそのまま連ドラにもなりそう。
 「家族」は本国からの指令を内容も考えずに実行することだけを生業としていて、それはある意味、日常が淡々と続くことと変わらない。その「日常」が、隣の家に住む韓国人一家の日常と対比される。「北」の家族は仲睦まじく見えて全てが仮初めだが、「南」の家族は常に喧嘩してばかりというリアルさ。
 「南」の家族は「北」の家族に対して、その絵に描いたような幸せぶりをひがんだり羨ましがったりするのだが、その実「北」の家族こそが「南」の家族を羨む内心をじょじょにさらけ出して行く。それは、民主国家の体制に毒されて行くことに他ならない。


 常に家族というものに憧憬を抱くギドクらしく、脚本はまさにどストレート。全てわかりやすい構図と台詞で表現し、直球勝負でテーマを語る。語られる内容も、ある意味平凡かつ当たり前とさえ思えるものだが、単純な「互いを敬い合えば」ということを実現するのがどれだけ難しいか。


 「北」の工作員絡みの描写は、誇張されデフォルメされ、世間に流布しているベタなイメージでまとまっているのだが、それゆえに切実さが痛烈。「南」の家族の日常会話が隣家に丸聞こえになっているあたりも、まるで漫画のような大胆な省略で、必要な情報だけをダイレクトに観客に伝えてくる。
 設定とシチュエーションの面白さに加え、シナリオも完全にコメディのそれなのだが、おいそれとは笑えない、一触即発の空気がどこかしら漂っているあたりも上手いですね。


 この後に見た『サスペクト』が、同じく北の元工作員を主人公にしたアクション巨編ということで、まあ悪くはないもののいささか新鮮味に欠けたなあ……。今作は家族四人とも凄腕の工作員で、実はお爺さんが超強かったりするから、この設定だけ残してファミリーものアクション巨編も観たかったような気がする。すごいチームプレイで戦ったりしてさあ。

キム・ギドク初期作品集BOX(4枚組) [DVD]

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