"覚醒の果てに"『ルーシー』
リュック・ベッソン監督作品。
マフィアによって拉致され、運び屋とされるべく新種の麻薬を体内に埋め込まれてしまったルーシー。だが、普通の女性だったはずの彼女の脳は漏れだした麻薬によって突如、覚醒を開始する。10%しか使われていないはずの脳が、100%解放された時、何が起こるのか……?
リュック・ベッソンはいつから「リュック・ベッソン(笑)」になってしまったんだろうなあ、と思い起こすと、自分的には『アンジェラ』あたりで決定的になったような気がしておる。思い起こせば、幼稚な恋愛観ばかり印象に残っていた映画だが、単に自分の付き合ってる女を主演に起用しちゃう恥ずかしさだけでなく、女に羽根が生えて空を飛び始めるトンデモっぷりに、今作のようなトンデモSFを作っちゃう萌芽がすでにあったのだろうな……。
さらに数々の製作作品における脚本の濫造が、結局はいざ監督するぞという時にも響き、都合良く監督作ではいい本が書ける、というわけにはいかなくなっているのであろう。
さて、今作ではビッグバジェットで、今や大スターになってきたスカヨハを起用ということで、ベッソンも一発決めるというわけにはいかなかったからか、恋愛要素は皆無。ねっちりした演技指導の余地もないからか、開始十分で感情を失うスカヨハさん。俺に対して抱けない恋愛感情なんてどこかへ消えてしまえ!とベッソンが思ったかは定かではない。そのせいか、いつもはあるヒロインへの過剰な思い入れも、今作ではどこか中途半端だ。『アンジェラ』の天使ちゃんから、ゴッドちゃんレベルに到達したのに、なんかもったいないな!
『ニキータ』『ジャンヌ・ダルク』『アンジェラ』『アデル』に続いての『ルーシー』ということで、ベッソンの女の名前シリーズとしては5作目、幻に終わった『マチルダ』やら、製作の『コロンビアーナ』(『WASABI』は違ったか……)も含めたらかなりの数になっているが、見事に一貫性がなく、段々と薄味になっていくあたりも注目したら面白いかもしれないね。
脳が発達した結果、ネットやテレビの電波も操ったりするので、割と早い段階から身体性がなくなって肉体がどうでもよくなり、『トランセンデンス』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140712/1405176460)っぽい話にもなっている。ある意味トンデモ描写が振り切ってる結果、かえってましになったような気さえするところ。
アクションも銃撃もサスペンスも脳の進化によって全てが無意味化されていくのだが、それが映画の文法や作劇を見つめ直すようなメタ的な視点のもと為されているかというと、別段そんなわきゃあないし、こんなんやって壊したら面白くない?と思いつきレベルを出ていないのもしんどい。終盤はトンデモがさらに加速していくのだが、映像のセンスも壊滅的で、だからなんなの感まで加速していくのであった。
だいたい本国の映画の3分の1ぐらいにオーラとどぎつさの減衰したチェ・ミンシクなど演出もさっぱりで、もはやリュック・ベッソンの今昔、劣化ぶりを半笑いで眺めて楽しむような嘲笑的な見方をするぐらいしかないし、それすらも見終わったら綺麗さっぱり記憶から消え去るような、そんな映画でありました。
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