"私たちは天使じゃない"『ビザンチウム』(ネタバレ)


 ニール・ジョーダン監督作。


 少女エレノアと、その「姉」クララは放浪の旅を続けるヴァンパイア。「同盟」の追跡をかわしながら、海辺の街を潜伏先に選ぶ。夜の遊園地で娼婦稼業に精を出すクララは、ゲストハウスを持つ男を丸め込み、そこに住み着くことにする。「ビザンチウム」というその建物を売春宿に仕立て生計を立てるクララ。一方、エラはフランクという白血病の青年と出会い……。


 あの『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』以来、ニール・ジョーダンが吸血鬼物を撮りました、ということで、これは期待作であった。『アリス・クリード』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110630/1309360375)では緩んだボディだったジェマ・アータートンが今回はセクシーに決め決めで登場、それとペアになっているもう一人の吸血鬼役としてそろそろ大人になってきたシアーシャ・ローナン! 二人の女吸血鬼の共依存的な関係を描く、ということで、設定も『インタビュー……』に似てますわね。


 が、もう日本での出版が中断されて十年にもなるアン・ライス御大の持つ圧倒的なまでの物語力とキャラクターのパワーがないのと、さらには予算の少なさも響いたか、かの作品の縮小版という感覚もあり。太陽や流れる水が平気だったり、古くからある設定のいくつかをカットして物語進行をスムーズ化してカバーしているようにも見える。肉体的特性を爪に集約していたり、吸血鬼化するために特定の場所を必要とするというワンクッションを置いていたりと、スケールダウンは否めない。ただ、爪が伸びるシーンや切り株惨殺シーンや、滝の水が血に変わるなど、ところどころ印象的なビジュアルも突っ込んでカバーしていますな。


 まあシアーシャちゃんがこれぐらい「演れる」ことはもうわかっていて、語り手として憂いを秘めた横顔で誰も読まない物語を綴るあたりは安定のクオリティ。ただ『ハンナ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110831/1314763545)などがそれに依存気味でもう一伸びがなかったのに対し、今作ではその母親であるジェマ・アータートンが大活躍だ! いやはや、この人、主人公の成長と「親離れ」を描くために「切られる」役回りだとばかり思っていたのだが、実は彼女の「子離れ」の物語でもあったのだね。
 まだ小娘の頃に娼館に売られ、父親が誰かもわからない娘は取り上げられ、病気で死にかけ、それでもわずかなチャンスを物にして、魂を捨ててまでも生き延びてきた。娘が同じ男によって同じ憂き目にあおうとした時、同じ方法でためらいもなく救い出したことで、「同盟」に追われることとなる。
 その小娘時代に最初に浜辺であった軍人サム・ライリーは、真珠もくれたしちょっといい人っぽかったけど、結局別の軍人に騙されてしまい、そのサム・ライリーも後に「同盟」と接触した時に口添えはしてくれたものの助けてはくれず、その「同盟」が女性を排除していることも合わさって、完全に男性不信に陥っているのだな。ダンサーや娼婦という、男に教え込まれた仕事を続けて生計を立てているあたりがどこか自傷的だし、そうして金を奪い血を奪い利用仕返すのだ、という復讐心も垣間見える。


 娘であるシアーシャちゃんは、そんな母への反発を抱いていて、でもその憎悪をどこか過剰なものとして捉えているのだな。そうして男を憎みながら、母娘で永遠にさすらうことに疑問を感じている。
 お母さんは男性不信から娘に依存気味で、自分のわがままで縛り付け、彼氏が出来たら殺そうとまでして、まあろくな女ではない……んだけど、彼女をそんな人間にしてしまったのは、結局なんだったのだろう。いや、正しい理由を求め出したらきりがないし、複合する要因があるはず。だけどその男は、自分があの日真珠を渡したことで、間接的にとはいえ「この道」に引きずり込んだせいなのではないか、とずっと責任を感じていたのだ……。
 唯一、復活シーンから威厳あるイケメン吸血鬼として登場するサム・ライリー。知らない、と思ったら『ロシアン・ルーレット』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110624/1308887137)で観てたわ。真珠を渡した軍人は、戦場で死にかけ、伝承に従って吸血鬼として甦る。戻ってきたら、その女の子は自分の上官に娼婦にされていて、挙げ句の果てに吸血鬼に! なんとか取りなして「同盟」に認めさせたものの、今度は娘も吸血鬼に変えて脱走してしまう! 
 それ以来、彼女の足取りを追い続けてきたのだが、彼自身もこの世にはびこる悪を討つという看板を掲げた「同盟」に参加しているのだが、時代は現代となり、「同盟」はその目的よりも裏切り者の女二人を追うことに汲々としている。現代の悪が多様化していることもあり、もはや何を目指しているか、何と戦っているかもわからないような集団に成り果てているのだろう。で、相変わらず女は排斥し、女が吸血鬼を作ることも認めていない……。
 そんな男ばかりの集団の排他性と、逆に女を怖がってるような「セカンド童貞」っぷりに、真のモテ男はもううんざりしていたのだ! 冒頭で、ジェマ・アータートンを捕まえに来た男があっさりと騙し討ちにあって殺されるが、ありゃあセカンド童貞時代が長すぎて女に免疫がないからだったのだな、きっと。


 そしてついに土壇場、娘を人質にジェマ・アータートンを捕まえて処刑しようとした「同盟」の上司を、逆に切株にするサム・ライリー! まさかの200年越しの純愛が炸裂だ。処刑寸前に「あなたにもらった真珠よ!」とか言って命乞いしながらも、実際に助けてもらったらものすごく驚いていたあたり、ジェマ・アータートンは彼のことも含めて男などまるで信じていなかったのだろう。


「いや……一応言ってみたけど、まさか本気でやるとは思わへんかったわ、この人……!」


と、驚きと嬉しさで、顔が半笑いになっているあたりが最高である。
 で、さっきまであんだけ娘に執着していたのに、この一瞬で手のひらを返すおかん!


「もうあんたも子供ちゃうねんし……好きに生きいや」


 おい! 言ってることがさっきと違い過ぎるだろ! 責任を持てよ! しかしまあ、責任を持つ気になったのはサム・ライリーで、そんな男が現れたことは、彼女の200年分の彷徨を引っくり返す程、大きな出来事だったのだね。「いつか君に許されたい」と言う彼を、今だけは、束の間に終わるかもしれないけれど、また信じてみてもいい。あの時、ちょっとカッコいいと感じた男は何もしてくれなかったと思ってたけど、実はそうじゃなかった。世の男全てがクズじゃなく、自分の男を見る目もそれほど間違ってはいなかった。だから、自分も「番い」を作り、娘もまたそうすることを認めよう……。


 色々いい加減すぎるだろ、と言えばそうなのだが、そもそも「愛」ってのは、自分と相手とその心が大事で、他のことをいい加減に扱うことも含むよね。「同盟? もうどうでもいいっす、そんなの」と裏切っちゃって、逃亡者として追われる身となる男は、『クライング・ゲーム』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120227/1330345187)にも通じる部分で、形こそ違えど、愛のために重みを背負おうとすることに他ならない。でもって、娼婦と共に立ち去る男……と言えば、『俺たちは天使じゃない』のラストじゃんかよ!
 サム・ライリーと絡みはなかったけど、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズはこのラストからとうとう吸血鬼の世界に足を踏み入れるわけで、かの作品のショーン・ペンと似た立ち位置のようにも思える。


 映画はここで終わるけれど、いつかまた、何十年か何百年かしたら、シアーシャちゃんも書かなくなっていた物語をまた書き始めるかもしれないし、窓から捨てたそれをお母さんが拾って読むこともあるかもしれない。


「おう、エラ、エラ、エラ……。またぼやいてやがる……。捨てるわよ、わたしはもう、何百年も聞いてるんだから」


 そんな風な未来が容易く思い浮かべられてしまうあたり、やはり『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』につながる映画であるし、全編ニール・ジョーダン印で堪能いたしました。傑作とか斬新とか、そんな風には全く思わないけれど、お気に入り作家の定番芸を観られて大満足の一本ですね。

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