”彼方の星の光”『インポッシブル』(ネタバレあり)


 A・J・バヨナ監督の新作。


 2004年タイ、スマトラ島沖巨大地震……。リゾートで休暇を楽しむマリアとヘンリー、三人の息子たちも、その突如襲いかかってきた津波に飲まれた……。かつてない恐怖の中、濁流にさらわれたマリアは必死に子供たちと夫の姿を探し求める。辛うじて長男の姿を見つけたその時、また新たな波が……。


 『永遠のこどもたち』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20090122/1232633590)の監督がついに新作を撮った……ということで、長らく楽しみにしていた映画。スマトラ沖地震津波が題材ということで、なかなか呑気に観られないであろうとも思ったが行ってきました。最近では、そう言えば『TSUNAMI』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20100930/1285842121)とかあったなあ……。あとは『ヒアアフター』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20101210/1291947750)ですね。
 ユアン・マクレガー父、ナオミ・ワッツ母、男の子三人という家族構成で、リゾートのビーチにやってくる……んだけど、津波が直撃! このシーンのスピード感というか、本当にあっという間に波がやってくる感じが恐ろしい。「おかしい」と思った瞬間には、もう手遅れ。母と長男、父と次男三男に別れ別れになる形で波に飲まれる。気がついたナオミ・ワッツ母だが、まだ濁流の中! ここで流されてる息子と出会えたのも奇跡。信じられない程過酷な状況の中、この物語はそれでもまだ、非常に幸運だった人たちのことを描いている。実話だから、一応オチもわかっているわけだしな。ただ、それがいったいどれだけの幸運であったかを描く事で、その幸運に恵まれなかったということはどういうことなのか、恵まれなかった人たちはどうなったのか、ということも、浮かび上がってくる。


 大津波が映画の前半に来るので、いきなりクライマックスってなもののように思えるが、本当の災害は起こったその瞬間だけでなく、その後もずっとずっと続くのだ、ということが残りの時間全てかけて描かれる。うーん、やはり臨死体験なんかしてる場合ではなかったよな……。
 絶望的な状況でシニカルになっちゃう長男を、折れそうな心と傷だらけの身体で必死に諭すナオミ・ワッツの大熱演がまたすごい。途中で余所の子供を助けるあたりも、この状況下で生きるということは、助け合うことであるというテーゼになっている。やっとこさ病院にたどり着いたら、今度は自分がボロボロになっていて寝たきりに……段々顔が土気色に!


 何に出てても弱々しいユアン・マクレガーだが、今回のお父さん役は良かったですね。何がいいって、何をやっても全然役に立たないし、子供は人任せにしてはぐれるし、すぐ泣いちゃうし……その弱々しさがいいじゃないですか。そもそも、この状況で役に立つ人間なんてそうそういないのである。とりあえず、携帯のバッテリーを惜しむような人間にだけはならないでおきたいですね!


 ナオミ・ワッツが怪我で大ピンチ、ユアンはもともと役立たずなので、段々と映画は子供たちのターンに。子役三人とも演技が良かったね。特に、バスに乗って散々おしっこを我慢していた末っ子が、ついにそれを解放させるシーンの表情のリアルさが素晴らしかった(実際にしたのかもしれないが……)。画面上で流されてひどい目にあうシーンは長男だけで、次男や三男も大変な目にあったはずなのにその辺りの映像はない。これはやっぱり映画撮影といえ、次男三男ぐらいの年齢の子を水に漬けて流すのは、危険だし虐待になってしまうからかな。


 ストーリー展開の起伏、会えるかな会えるかなと思わせておいて外すあたりの運び方の上手さももちろんだが、実際に災害を体験させるかのような演出や、病院内の逼塞した空気感などもリアルで素晴らしい。緊張感を常に孕み、どっと体力を消費させるかのような臨場感がある。
 奇跡の生還を果たした主人公一家の数日の体験を中心に描きながら、家族を失った人や、今も傷を負い続けている現地への目配りも忘れない。ラスト、ユアン父の手元に残ったメモに記された名前や、飛行機の窓の外に浮いた光景がその象徴である。


 タイトルに込められた意味や、数々のメタファーも切なく、濃密でいい映画でござった……。が、さすがは『永遠のこどもたち』の監督ですね。おい、バヨナ! いちいちホラー演出すんなw そしてさりげなく霊を登場させるなw






<ここからちょいネタバレ>


 あの、途中で助けたダニエル少年ってさ……あれ……霊だよね? 人の多いところについたら急にいなくなってたし、病院では突然現れ、わざとらしく笑いかけた上で走り去り、そして相変わらず主人公一家以外に誰にも目撃されない……。はっきりとそうだと描いてるわけではないが、きっと監督の中では霊ということになってるような気がするなあ。あのお父さんも実はそうでね……。もうちょっと背中の傷が深かったら絶対そういうことなんだがなあ。
 そう考えると、ラストに長男が母にこのことを伝えるシーンも、突然物悲しくなるんですよ……!

永遠のこどもたち [DVD]

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