”生きて帰るために”『ダンケルク』
クリストファー・ノーラン監督作!
フランス北端、ダンケルク。1940年、ドイツ軍の電撃的侵攻になすすべなく押し捲られた英仏連合軍は、海沿いのこの街に追い込まれていた。絶体絶命の中、進撃の止まったわずかな猶予の中で、英国軍は史上最大の救出作戦を発動させる。陸海空、全てが戦場となるこの地で、兵士たちは生き延びることができるのか……?
『インターステラー』以来の企画に、第二次大戦中のダンケルクにおける「ダイナモ作戦」を題材に選んだノーラン、初の実話の映画化にチャレンジ。すっかり「こだわり」の人として認知され、事前の宣伝でもノーCGで物を作っては壊しまくる姿が豪快にアピールされた。
今作では実在の戦争ものということで、実際に船を浮かべ、現存する戦闘機を飛ばし、人間をどんどん海に放り込む。それを70ミリフィルムのIMAXカメラで撮影……。
まあここまでのこだわりを実際に通すだけの実績を上げてきたことがまず凄いし、相変わらずの妥協のなさがひしひしと伝わってくる。IMAX上映で鑑賞したが、恒例のカウントダウンもなく、いきなり銃火が交差する街中へ……。
ドイツ軍による降伏勧告が上空から散布されるが、ウンコしてそれで尻を拭きたい主人公。しかししゃがみこもうとする度に銃撃が繰り返され、一向にウンコできない! もしかしてこの映画は、このままずーっとウンコを我慢し続けるサスペンスになるんではなかろうか……と心配しちゃったよ。
お話は陸海空の3パートに別れていて、陸が一週間、海が一日、空が一時間の経過を描いている。心配せずとも、一週間ウンコを我慢する必要はなかったわけだ。安心した……。陸パートを一時間にしてその間ずーっとウンコを我慢してる話にしたら、より面白かったかもしれないがな。アイドル味を一切合切封印したワンダイレクションもいっしょになって我慢してな。
孤立し、爆撃を受ける陸パートは若手の役者メイン、エキストラも大量だが、ここが映画の主軸になっているイメージ。いつ攻撃がくるかわからない嫌な臨場感を広大感溢れる画面と抜群の音響で見せ、そこにハンス・ジマーが不協和音を浴びせて煽りまくる。ああ、いやだいやだ戦場はいやだ。わけもわからないうちに、数m立ち位置がずれたら爆弾で吹き飛ばされ、数センチ頭の位置がずれたら脳をぶちまけるかもしれない緊張感。実際に人がバラバラになる絵は見せずに、遠景のどこかでそういうことが起こっていると思わせる臨場感。
史実的にも、この海岸に残された兵士たちを救出することが主眼なので、このパートの緊張感が高まれば高まるほど、他のテンションも上がっていくことに。
空からはパイロットのトム・ハーディが、散発的ながら爆撃をしているドイツ機から味方を守るべく、三機小隊で駆けつける……んだけど、隊長機は先に落とされ、自機も燃料のメーターが壊れて大ピンチ状態。この空のシーンはレーザーIMAXの白眉たる広大さを見せつけてくれる。こうして戦闘機を操縦していても、人間の視界というのは限られていて、知らない間に味方機は落ちてるし、敵機の位置関係も飛び回ってやっと捕捉できるぐらいで、本当に寄る辺がない。気がつけばもう墜落しているし、敵もまたそうなのだろう、という無常ささえ漂う……。空を舞う木の葉のような……。
海からはマーク・ライランスが、息子とその友達と共に自らの船で兵士の救助に向かう。この友達君が非常に冴えない顔をしていて、びっくりするぐらい役に立たなさそうなのだが、本人も自覚していて、新聞に載るような立派なことをしたいと語る。しかしUボートに沈められた艦艇から、唯一生き残った兵士キリアン・マーフィを助けたところ、悲劇が……。
空パートのトム・ハーディがやたらと格好良く描かれていて、ノーラン監督の彼に対する愛を強く感じたところだったが、ここのキリアンは何とも言いようのない汚れ役で、悲しくも情けない振る舞いを見せてしまうキャラ。絶大な、揺るぎない信頼があるからこそ、この役を任されているのだろうな、という気がするのである。
3パートを順番にやったら陸パートがやたらとテンポが悪くなるだろうから、まあ飽きさせないための工夫として時系列をいじってるのだろうな、と思うのだが、後半はその時間差がじわじわ縮まってきて、またノーランのいつもの名調子で手に汗握らされることになりましたよ。時系列が重なるのは本当に一瞬だけで、また緩やかに分岐していくのが何やらもったいなく感じられたぐらい。一致したらあとはそのままだった方が効果的だったんでは、とは思うが、後の列車のシーンなど、やっぱり別に分けて描きたかったものが色々とあったということですな。
マーク・ライランスが一人でバトルシップしてたあたりや、ケネス・ブラナーのラストの敬礼なども、クサくなりすぎずに品良くまとめていて、撤退戦でありながらきっちりカタルシスも入れてくる。
大体が国威発揚的な文脈に回収できてしまうので、もうちょっと個々の人間ドラマ(それもノーランの描くいささか大仰な奴な)が見たかったところでもあるが、まあ内容が内容だけにこうなるのは必然だろう。しかし、一番ハラハラさせられかつ感動したのは、燃料切れを起こしたトムハ機の、車輪が出るのが間に合うか間に合わないかというシーンだったので、今回はとことん実物のギミックに振り切った映画であった。
こういう映画は当分作られないだろうし、この時代にオンリーワンな存在感を放つ一本であるのは間違いない。ノーラン自身も、次はまた全然違う企画に行っちゃうだろうしな。
まあまあ普通のビスタのスクリーンと普通の5.1chでも面白いと思うが、迫力はかなり環境に依存するので、IMAXや爆音上映などで観る機会があればチェックしたいところ。特に音響は大変素晴らしいので、なるべく音のいいところで。まあそうなると、本稿時点ではエキスポシティのレーザーIMAXが最高ですね。
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