”痛みは連鎖する”『アフターマス』(ネタバレ)
シュワルツェネッガー主演作!
妻と身重の娘の帰宅を待ちわびていた現場監督のメルニック。だが、空港まで迎えに訪れた彼を待っていたのは、思いもかけない悲報だった。航空史上最悪の空中衝突事故……。戻らぬ妻子のために航空会社に謝罪を求めるメルニックだったが……。
前作『マギー』あたりから、いよいよアクションスターにもお別れしようとしているらしいシュワちゃん。今作は工事現場の監督が仕事の男だが、身体こそでかいもののしっかり老いているイメージで、シャワーシーンで脱いでるがもはやシワシワのブヨブヨだ!
ニューヨークから飛んでくる妻、娘、娘の胎内の孫が来るのを、家を飾りつけして今か今かと待っていたが、空港にまで迎えにいったところ別室に案内され、まさかの墜落の知らせを受ける。生存は絶望的と言われるが、情報センターではなく家に帰り、自ら事故現場に車を飛ばす。ボランティアに紛れ込んで現場を歩き回り、ついに二人の遺体を……。
まあやるせなさしかない展開なのだが、シュワは大きな身体をすぼめて好演。さあ復讐のために馬鹿でかい銃をかついで航空会社に乗り込むのか……? 今なら原作版『バトルランナー』もやれそうね。
視点が変わって事故当日の管制官スクート・マクネイリー。一見暗そうな人だが、出だしはまずまずふくよかで、『96時間』のキムちゃんと結婚して男の子も一人。平凡だが幸せな人生……。
chateaudif.hatenadiary.com
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マッチョじゃない痩せた男だけど、実は彼とシュワちゃんは共通点も多く表裏一体の存在なのね。共に事故によって人生を破壊される。事故の経過を見ていると多くの偶然やシステムの欠陥が重なりに重なって起きている。
映画はこの経緯をかなり忠実に描いている。無論、ミスした管制官にも責任はあろうが、彼一人に全てが帰結するものでもない。スクート・マクネイリーはもともと貧相なのがどんどんやつれメイクになって、痛々しく罪悪感に苛まれていく。憔悴し切って小さな背中になるシュワちゃんと、対照的なルックスのこの二人が、いつしか重なって見える。
航空会社は現場レベルでは親切なのだが、いざ賠償の交渉となると露骨に居丈高になり、この金で我慢しろよ、と迫るかなりわかりやすく嫌な感じに変貌し、「家族の写真を見て謝罪しろ」と要求するシュワを突っぱねる。遺憾の意、とか言ってる政治家などそうだが、世の中確かにこういう「謝ったら死ぬマン」が結構いるよな……。非を認めるともっと吹っかけられると思うのであろうか。こうして「誰一人謝らない」という状況が作られ、行き場を失ったシュワは当事者である管制官を探すように……。
家族を持つ普通の男二人が対面し、事態は悲劇へとまっしぐらに。やっとリーアムパパから解放されて幸せな結婚をしたキムちゃんが、今度はシュワに襲われるというのも気の毒としか言いようがない。写真を見せられたマクネイリーさん、「あれは事故だったんだ!」「俺が殺したんじゃない」「消えなきゃ警察を呼ぶぞ!」と言ってはいけないワードを連発。あれだけ後悔し苦しんでいたのに、口を開けば出てくるのはこれなのは、結局は認めないことで精神の安定を保っていたのであろうことがわかる。責任を認めてしまうと、きっと押しつぶされてしまうのだ……。
あんだけマッチョな肉体を持っていたはずのシュワちゃんが、チンコより小さいナイフを使っちゃうあたりも物悲しく皮肉で、カタルシスなど何もない。マクネイリーの家族を自分の妻子と誤認するところは、実にわかりやすくこの悲劇の構図を浮かび上がらせるな。
10年の服役の後、シュワちゃんが迎えるラストは、ちょっとメタ的に観ると、今まで数々の映画で、正義、復讐、国家の名の下にボディカウントを積み重ねて来た彼についに清算の時が訪れたかのようで、老いさらばえた彼にはもはや反撃の手段はない。これこそがシュワ版『グラン・トリノ』なのだ!と言っちゃうには、映画自体がいささか小粒なのだが、これは今後の作品選びにおいても傾向として浮かび上がってくるんじゃないかな。
ラストはラストで、シュワちゃんがまた「あいつは殺されて当然だったんだ!」とか言っちゃうバージョンもありだったと思う。実際、服役して教育刑も受けずに一年ぐらいしか経ってなければそう言ってたんじゃないか。人間は常に正しい行動を取り得るとは限らないし、死んだ管制官にもまた違った運命があったのかもしれないですね。
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