”制服はモテるんだ”『パッセンジャー』
『イミテーション・ゲーム』のモルテン・ティルドゥム監督がSFに挑戦!
5000人の乗客を乗せ、新たな惑星を目指すアヴァロン号。到着は百二十年後……。だが、なぜか九十年を残してエンジニアのジムが目覚めてしまう。話し相手はコンピュータかバーテンアンドロイドしかいない環境で孤独に取り憑かれた彼は、オーロラという女性を目覚めさせたいと考えるようになる……。
なんとなく間もなく公開のドゥニ・ヴィルヌーブ『メッセージ』とタイトルの語感が被るので、一瞬どっちがどっちか考えてしまいますよ。ところが、蓋を開けたらですね……。
主演はクリス・プラットとジェニファー・ローレンス。宇宙を航行する巨大船に隕石群がぶつかるところから幕開け。何かトラブルが起きたらしく、冷凍カプセルから目覚めてしまうクリス・プラット。カプセルには直接冷凍する機能がなく単に保冷しているだけなので、再び眠ることはできない。宇宙船中を駆け回るが、単なる乗客なので船をコントロールしている区画には入れず、諦めて孤独に生活することに……。
この序盤のクリス・プラットが孤独に過ごしてるあたりまではかなり面白くて、結構期待させられた。ここまでビジュアルも美しいし、不可能状況の伏線をきっちり張ってきている。
一年間の孤独を経て、その後のジェニファー・ローレンスを目覚めさせてしまう展開にはドン引きしたところだが、これだって要は乗り越えるべき課題の形成であり、うまく処理すればこの後も面白くなっていくはず……なんだが、段々とおかしくなってくる。
マイケル・シーン演ずる陽気なバーテンロボが、まあ単にアンドロイドにすぎないわけなのだがクリプラの口止めを破ってジェニファー・ローレンスに真相をばらしてしまう。彼女も誤作動で偶然目覚めたようにすっとぼけていたが、実は手動でわざと目覚めさせていたというその真相を、良い決断だったと賞賛するバーテン。まるで失言癖のある人のようなんだが、人間ならともかくロボットであるという特性が全然活かされてない展開なんだが……。いともあっさり人間の言いつけを破ってしまうロボ、これはとりあえず鉄腕アトム読むとこからやり直しだろ……。
当然激怒するジェニファー・ローレンス。バレた!という顔をしてペコペコ謝るクリプラ。クリプラはいつも通りのクリプラで人好きのする陽性のキャラクターなんだけど、その陽性さこそがこういった軽挙をしでかした諸悪の根源に見える。こういう奴なんだからしようがない、八方塞がりなんだから女が受け入れるしかないよ、という「男はやんちゃするものである」伝説ですね。
しかしまあ、許すに至るまでは何がしか説得力のある展開がいるんじゃないか、と思うのだが、宇宙船の危機が迫るにつれて何だかんだとなし崩しになっていく……。ローレンスつながりで操縦士ローレンス・フィッシュバーンが偶然都合よく目覚めて登場し、「宇宙船の危機を具体的に指摘」し、二人の持っていなかった「乗組員権限」を使って方向性や対策を示唆してくれる……のはいいのだが、あくまでそのついでのように「二人で力を合わせるんだ」とアドバイス。さらに彼だけポッドの不具合で内臓があちこち異常をきたしており、上記のことを済ませたら、用済みとばかりに死んでいく。いや……生き急いだな……。主役二人や、他のクルーも身体に異常があるとか一切なく彼だけがあっけなく死んでしまうので、本当に話の都合で殺された感が強すぎる。
二人を協力させてくっつけ直して宇宙船も直させて自分は消える、という御都合主義の極みのようなキャラだが、さすがに一人で役を背負わされすぎで、テクニカルな部分はともかく恋愛要素に関してはまったく説得力がない。
どうしてもこの展開にしたければ、スーザン・サランドンかヘレン・ミレンあたりをフィッシュバーンと一緒に目覚めさせて、バーで「女の幸せってのはね……男がいてこそなのよ……」とかなんとか語らせたらよかったんじゃないか。で、こっちも死んでしまうと。それはそれで最低の話だが……。
ところで妻にこの筋を説明してたら、「そのフィッシュバーンって、沖田艦長じゃないの」と言われて、なるほど、と思ったところである。なるほど、この展開は『ヤマト』オマージュだったのか。クリプラ=古代、ジェニファー=森雪に全てを託して逝くわけだ。そうすると、最期に制服を着て、宇宙空間を見ながら息絶えるあたり、ますます意識してるような気がしてきた。まあ末期の言葉が「制服は……モテるんだ……」なのは「沖田はそんなこと言わない」伝説として語り継がれるかもしれないね。
宇宙船の異常の原因も、「ファンが壊れて熱暴走」という「PCかよ!」と突っ込みたくなる代物だし、宇宙船から飛び出してるワイヤーも切れてるのに結構延々とふわふわ近くを浮いてるクリプラにも笑いが込み上げてくる。そして彼を助けようとタンクトップで奮闘するジェニファー・ローレンスの、無駄な水着シーンと合わせたサービス感……。
いやはや、失笑しか出てこない素晴らしく空疎な映画で、これはこれでまあ楽しかったと言えるかもしれないな。最近のクリプラは何やっても軽薄キャラで鬱陶しくなってきたので、そっちは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』だけにして、そろそろイメージの転換を図ってもいいんではなかろうか。
作り手にはとりあえず『火の鳥』宇宙編を百回読んで欲しい。どうしてしまったんだ、ティルドゥム監督……。
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