”二人で作った家”『ハンズ・オブ・ラヴ』
20年仕事一筋だった女性刑事ローレルだが、ある日、ステイシーという名の若い女性と恋に落ちた。絆を深め、やがて中古住宅を買って暮らし始める二人。だが、ローレルは癌に倒れ余命半年を宣告されてしまう。同性パートナーであるステイシーに家を残すため、遺族年金の受け取りを彼女にしようとするローレルだが、州の委員会に拒否され……。
冒頭は刑事ドラマのように始まり逮捕シーン。その後、刑事であることを隠してバレーボールに出かけた先でエレン・ペイジに出会い、恋に落ちる。同性パートナーとなって共同生活を始めた数年後、ガンが発覚……と、刑事もの、恋愛もの、難病ものをものすごい勢いで消化していく。さらに上述の委員会に突入し、法廷ものの様相まで呈するように……。
実話なのでどこか端折るわけにもいかないし(と言うより、相当端折ってもまだこれぐらいは語るとこあるんだろうな……)、こんな感じだとダイジェストっぽくなるんじゃないかと思うところだが、そこはこのキャスティング。言わずと知れた演技派ジュリアン・ムーアが『ハンニバル』の刑事、『アリスのままで』の病人役をぶちかまし、過日にレズビアンであることをカミングアウトしたエレン・ペイジも、これは出ておかねばならない映画だったようで、大変に力の入った内容。また強面の相棒刑事なんだけど実はいい人なマイケル・シャノンに、エキセントリックにしゃべりまくる運動家スティーブ・カレルと揃える。ある意味「一目でどういうキャラかわかる」ようにして端折ったようにも思えるが、やはり端的に見せ切るにはそれなりの作り込みや細心さが必要なので、その点演技力ハンパないからなこの連中は……。
主人公カップルが、ありのままに生きようとするのに対し、それを阻もうとする者は偏狭な価値観を押し付けるしかない。「これは政治の問題だから」という台詞が逃げ口上として使われるのが印象的。誰もが持つ権利の話ではなく、投票や予算や選択によって決まる問題へとすり替えようとするのだが、そうは問屋が卸さんのである。
委員会のシーンは、法廷ではないのでテクニカルな攻防ではなく、単純な意思表明が繰り返される。メインキャラが順番にスピーチしていく流れの中で、個々の人がそれぞれの価値観で生き、その上で同じ権利を主張していることが浮かび上がる。
真摯そのものの言葉が並ぶ中、スティーブ・カレルのやっている急進的な運動はそれこそ「政治的」に映るのだが、それも否定するわけではない。
それらを受けて、同僚である刑事たちも立ち上がる。自らもゲイであることを隠していた刑事も、「同じ同性愛者として応援するのだ」と告げるシーンが強く心に残ったところ。
実に大上段に構えた大真面目な映画なのだが、様々な実在の人物を描き分けているのが、自然かつリアルな多様さにつながっていて心地よいですね。『スポットライト』に似た手触りの快作でした。
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