”怪物をやっつけろ!”『マネーモンスター』(ネタバレ)


映画 『マネーモンスター』 予告

 ジョディ・フォスター監督作!

 財テク番組「マネーモンスター」の司会者リーは、話術とダンスパフォーマンスで人気。おなじみの株価予想とアドバイスで、今日も生中継に入ったリーは、ディレクターのパティの指示も無視して絶好調のはずだった……。だが、局内に侵入してきた一人の男が突如彼に銃を突きつけ、ある要求をしてくる……。

 メル・ギブソン主演の鬱病映画『それでも、愛してる』以来、ひさびさの監督作となりましたジョディさん。今回は来日までしてくれて、ありがたいことですね。

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 市場予測してニワカ投資家を煽る金融番組「マネーモンスター」の人気司会者ジョージ・クルーニーと、番組ディレクターのジュリア・ロバーツ。長年の付き合いだが最近ちょっと隙間風が吹いている二人の、いつものオンエア直前……そのはずだった……。
 が、景気良くいつものダンスで始まった番組に、謎の男が拳銃と爆弾を持って乱入してくる! この日は前週の株価暴落の特集の日で、そこの会社の社長が捕まらず、広報担当が生中継に出てくることになっていた。まさにそれで株をすった男が殴り込み、「銀行より安心な銘柄だよ!」と煽りまくったジョージ・クルーニーに爆弾を巻きつけ、さらに社長出てこいと要求! 最初は言ってないとすっとぼけたクルーニーだが、録画を見せられあえなく轟沈。
 男の要求で生中継は続行され、通報により警察も駆け込んでくるが手を出せない。ジュリア・ロバーツディレクターは、クルーニーがこっそりつけているイヤフォンで指示を出し、なんとか男がエスカレートするのを避けつつ、事態を沈静化しようと真相を探る……。

 自分は雇われ司会者(だから罪はないんだ)と言い張り、自分を助けるために視聴者の善意で株価を上げてもらおうとするクルーニーだが、壮絶にすべる。乱入してきた男は『アンブロークン』のジャック・オコンネルが演じていて、今回は全然不屈の男じゃないがいかにもいい人っぽい。そんな彼を懐柔しようとするクルーニーも、彼が説得に来たはずの婚約者に「穀潰し」と罵倒されたりしてるのを見てると、段々と同情が先に立ってくる。

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 しかし雇われ司会者だと言うジョージ・クルーニーと、別の局に移籍しようとしてるやっぱり雇われ者のジュリア・ロバーツだが、なぜか現場の判断は全て二人がしているのだよな。生中継の続行の可否にしろ、視聴率や番組のイメージが相当に絡むだろうに、なぜかホイホイと進めて、何の障害もない。この番組にはプロデューサーはいないのであろうか。テレビ局にはスポンサーもいないし、上役も同じ建物にはいないのであろうか……? まるで二人が番組はおろか局を丸ごと私物として持っているかのようだ。
 おかげで仕切ってるジュリア・ロバーツが超有能な人のように見えるが、これだけ横槍なくフリーハンドで何でもできたらスムーズに進むに決まってるよ。

 じゃあその分、番組で投資を煽りに煽った責任は二人がしっかり背負うのかと言うと、それは企業の方が実は儲けをちょろまかして裏取引をしていて……というのが見えてくる。悪いのは実はあの会社の社長だったんですよ〜! 僕たちも君と同じで騙されていたんだよ〜! いかにメディアの責任に折り合いをつけるのかと思っていたら、分かりやすい悪役を提示することで自分たちは共犯関係から逃れるセコさ。なんだこりゃあ。
 システムではなく、一部の不心得者が悪い! だから君と一緒にオレたちがそいつを成敗してやるぜ! とお話はあっさり勧善懲悪になり、ジュリア・ロバーツハッカーに頼んで証拠をつかむのであった。いや、いくら99分にまとめたからって、お手軽すぎるでしょ。

 ウォール街まで舞台にしておいて、悪いのは「1%の金持ちだけ」というのもなかなかすごい設定で、ハリウッドスター様が正義の味方であるのはいつものことであるにしろ、この映画自体に放送局から金でも出ているのか、「テレビ番組はツールに過ぎず、それは作り手の良心次第だ」なんて与太を本気で言おうとしているのか、理解に苦しむ。それにしても同じジョージ・クルーニー製作としても、『フィクサー』からさえかなり後退したように感じられるが……。
 番組を見ている観衆を何パターンも撮ってるが、これも臨場感を増すだけの工夫ではあっても、何か生きている感じのない、まさにモブであったな。

 しかし、結局悪者は成敗され、これでまあめでたく終わるのかと思いきや、ジャック・オコンネル君だけはきっちり射殺されてしまい、番組ジャックの責任だけは取らされるという悲しさ。ディレクター、司会者、カメラマンはプロの仕事を全うしただけで何も悪くないのだ……。とりあえず悲しんで見せて、善人ぶりだけはアピール。ラストも二人で「番組これからどうする?」と話して終わるのだが、やっぱりお前らの一存なんかい!

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 悪い意味で全然『テロ,ライブ』を彷彿とさせない、普通のハリウッドエンタメ。まあジョディ・フォスターはテンポよくまとめ切ったと思うけれど、監督・製作・主演の人たちが集まって、自分らをカッコよく描いたお友達映画、という印象でした。プランBの神様ブラピみたいなもんね。