”脳内コンゲーム”『アメリカン・ハッスル』


 デビッド・O・ラッセル監督作品。


 妻子あるケチな詐欺師であったアーヴィンだが、パーティで出会った女シドニーと組むようになってからは順調そのもの。しかし、FBI捜査官に尻尾をつかまれ囮捜査に協力させられることになってしまう。捜査官リッチーは捜査の標的を議員から市長、マフィアへとエスカレートさせ、シドニーや妻と共に巻き込まれたアーヴィンは危機に陥るのだが……。


 前作『世界に一つのプレイブック』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130304/1362392087)でブチ切れる男女を中心としたダメ一家を描いたラッセル監督だが、「たまむすび」での町山智浩氏の解説(http://machiokoshi666.blog.fc2.com/blog-entry-44.html)に詳しいが、それは彼自身の「心の旅」でもあった、ということだそうである。さて、ダンスで5.0点を目指したカップルに続き、今作でもまたまた「心の旅」が繰り広げられるのであった。


 ハゲてて腹出過ぎで、悲壮なまでの努力で髪をセットしているクリスチャン・ベールさん演ずる詐欺師と、その片棒を担ぐエイミー・アダムス。そして彼らを利用するFBIのブチ切れ男ブラッドリー・クーパーと、ベールさんの不満タラタラ嫁のジェニファー・ローレンス
 まさに『ザ・ファイター』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110331/1301579597)組と『プレイブック』組の合同公演という感じで、みんな上手いしすごく豪華……なはずなんだが、自分を偽って耐える男女とそれを挑発しブチ切れる二人という構図が妙に平板に感じられるのは、キャラクターが旧作の焼き直しであること以上に、彼ら四人が全員、監督自身の分身だからではないのかな。


 切れまくり挑発する二人はまさに、過去にブチ切れまくった監督のダークサイドで、それに利用され挑発されて、ハゲを笑われても耐えるベールさんが、今の監督自身のセルフイメージなのではなかろうか。四人はそれぞれ三角関係で絡まっていて、夫婦も含めて切ろうとしても切れない濃密な関係性は、まさに自己の一面一面を表しているように思える。
 手柄と名誉を求めて暴走するFBIの男は、かつて天才と呼ばれて調子に乗っていた時代の監督で、ジョージ・クルーニーだろうがベテラン女優だろうが怒鳴り散らし馬鹿にした頃と重なるが、今作ではその行く末もまた示唆される……。デニーロ演ずるマフィアが登場し、「このまま関わり続けると怖い怖いことになるよ」ということを嫌と言うほど示す展開は、ケチな詐欺師が足を突っ込んではいけない闇の世界、先日リドリーとコーマック・マッカーシーが「怖いから! ほんとに怖いから!」と延々語った『悪の法則』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20131219/1387453408)とも重なって見える。
 しかし「カウンセラー」と違って、主人公はギリギリで踏みとどまり、その「悪の法則」に絡め取られる前に一計を案じるのであった。自分を偽って流されててもだめだし、ぶち切れて突っ走っちゃってもだめ、それでは「法則」に捕まってしまう。そう、かつて大物俳優やスタッフの反感を買い、「ハリウッドの法則」に則って干されてしまった映画監督のように……!


 結末は敢えて痛快さに背を向けたような、コンゲームものとしてはカタルシスに欠ける、大逆転でも何でもなくこぢんまりとまとめたものになっている。だが、それこそが『プレイブック』における「5.0点」であり、監督が今後も目指して行きたい、穏やかで地に足のついた境地なのであろう。


 とまあ、こうして読み解くとなかなかいい話のようだが、実のところ『プレイブック』の焼き直しめいていて、監督の「ダークサイドに落ちかけたけど立ち直りました」という体験談の繰り返しでもある。せっかく自己言及しながらもタイトにまとめ、「5.0点」の「他人からは大したことに見えないけれど、自分としては大きな到達点」であるという微妙なニュアンスまでも表現しきった『プレイブック』があるのに、自分の鏡像ばかり増やして他者性の欠けた「心の旅」を続けた今作を作っちゃったのは、せっかく、


「あの頃はすいませんでした!」


と、スパッと頭を下げて潔い姿勢を見せた男が、


「でもね、僕も色々大変だったんですよ。だけど、こうして立ち直って、友情を失ったことも後悔してるんですよ。わかってくれるでしょ? 大丈夫、もう病気とも縁を切ったし! だから勘弁してくださいよ」


と、聞かれてもいないのにウダウダと自己弁護を垂れ流し、ナルシスティックな本音をだだ漏れしているようで、うわあ、超面倒臭い! 映画の内容も自分自身の心の葛藤を四人に投影してるだけだから、「どうしよう、どうしよう」と悩んでる様を延々見せられているようで、だから上映時間も長くなるし、そんなお悩みに同調できない人は「なんか乗れないなあ」と感じるのだ。


 アル中や薬物依存症と同様、プッツンする性癖も、今はなりを潜めていてもいつ顔を出してくるかわからんし、本人的にはリハビリも兼ねてこういう映画を撮らないとやっていけない……という面もあるのだろうが、撮れば撮るほどそれは、映画で言及される「僕はもう大丈夫! 薬も飲んでるし! プッツンとは縁を切りますよ! 地に足のついた生活をしますから!」というアピールと裏腹なのである。


 さすがに三本も続けて同じネタでは撮るまいとは思うが、そうするとまたストレスが溜まってやらかさないか、全然ダークサイドと決別できてないんではないか、と心配なラッセル監督の次回作は、果たしていかなるものになるのであろうか。知り合いの酔っ払いがまたやらかさないか半笑いで見守るような気持ちで注視していきたい。

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