"でもパパだったんだよ!"『スマイル、アゲイン』(ネタバレあり)


 ジェラルド・バトラー主演作!


 元サッカー選手のジョージだが、引退後の事業に失敗し借金塗れ。スポーツキャスターへの転身を図りながら、元妻と息子の暮らすバージニア州に越してくる。ついていっただけの息子のサッカーチームの練習で、コーチのあまりのいい加減さについ自ら指導し、子供たちや父兄の人気者になるジョージ。新しくサッカーチームのコーチに収まり、かつてないがしろにしてしまった息子との絆を取り戻そうとするのだが……。


 ウィル・スミス映画『幸せのちから』『七つの贈り物』を撮っていたイタリア人監督ガブリエレ・ムッチーノだが、ウィル・スミスがインド人監督に乗り換えた(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130704/1372940746)ので、今回は違う作風が見られるかな、と思ったところ。


 はてさて、元サッカー選手で、事業に失敗して借金まみれの主人公ジェラルド・バトラーだが、あまりやる気もないのに息子のサッカーチームのコーチ役に収まると、あっという間に子供の人気者になり、すぐにそのお母様方からモテモテに! スポーツキャスターへの転身を図っているのだが、サッカーママの中に元キャスターのキャサリン・ゼタ・ジョーンズがいて、あっという間にコネも出来る。
 何だこりゃ、あっという間にカムバックに成功? 都合のいい話だな、と、思いかけたのだが、実はこれが「都合の悪い」話であることが段々明らかになってくる。
 別れた妻役のジェシカ・ビールが、この模様を指して曰く「あなたって、第一印象はいいから……」。作中では二人が別れた理由が直接的には語られないのだが、ジェラルド・バトラーはかつてベッカムとボールを取り合ったこともある超人気選手であり、昔からモテモテであったことが示される。その中でジェシカ・ビールと結婚して子供も作ったけれど、家には居着かず、たまに応援に行ったらファンの女の子が大量に……。ああ、まあそういうことなんだろうねえ、と察しはつくのだけれど、それで別れた妻にしてみたら、今起きていることは、当時のミニチュア版になっているのである。引退して久しく、もううらぶれたおっさんになってきたが、かつてほどではないにせよやっぱり華があってモテる……。
 それを生かしてカムバックするんだ!という話ならそれでもいいのだが、「元妻に認められて、息子のちゃんとした父親になる」という目標にとって、その変わらないキャラが大きな障害になってくるのである。


 「独身男性」としての復活と、「夫」としての復活、「父」としての復活、それぞれがズレながら重なっていて、生活に必要な仕事を得るあたりが「独身男性」ストーリーに依存しているために、あちらを立てればこちらが立たずになる。また、元妻とよりを戻すことと、父親になることが、もうすでに離婚済み、再婚準備中なためにある程度距離を置かれていることも、共同親権になっているアメリカ社会ならでは。父親になるためには、再び夫になることを諦めねばならない、という背反も生まれるのである。


 ダメ人間である、と言い切ってしまうほどにはひどくない主人公なのだが、モテるとつい遊んでしまうし、時間をきっちり守ることもできないし、まあやっぱりいい加減な人間である。父親としてちゃんとせねば、という責任感はあるのだけれど、いい歳して行動が追いついていない。
 全然作品のタッチは違うけれど『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130530/1369840345)のゴズリングもこういう人で、モテた挙句にうっかり子供が出来たら、急にお父さんとして自覚に目覚めるんだが、そもそもバイク乗りしか能がないので、全然行動が伴わない。でも、それでもパパになりたいんだ!


 デニス・クエイドキャサリン・ゼタ・ジョーンズユマ・サーマンなど、結構豪華キャストなのにも関わらず、皆あまり重要な役ではなくコメディリリーフという感じになっているあたりが面白い。モテモテ野郎が主役の軽い話なのは、やっぱりイタリア野郎監督らしいカラーなのか?と半ば偏見の目で見てしまうわけであるが、家族関係に関しては、意外に細かいところまで踏み込んでいるな、という印象。子供がジェシカ・ビールに似ていたところは良かったね。
 割と真剣な話になりそうなところも、必ずコメディ感覚で処理し続けるバランスも良し。ジェラルド・バトラーの借りてる借家が豪邸のゲストハウスなので家を間違えられる、というギャグを延々引っ張り続けるあたりも嫌いじゃないです。
 子供サッカーのあたりは、もうちょっと見せ場が欲しかったかな。『じゅういちぶんのいち』を読んでたので、すんなりとサッカーの楽しさにも入っていけたが。


<ここからネタバレ>

 ラスト、いいところまでいったものの、そこまでのモテモテ生活が響いて元妻とよりを戻すことはかなわず、主人公はキャスターになるために他州へと旅立つ……のだが、結局職を捨てて、寂しがっている息子のところへと帰ってくる。「仕事はここでも見つかるさ。おまえの側にいたいんだ」。独身男性としてと、夫としてのカムバックをどちらも捨て、ただ息子の父となることだけを選ぶ……という、ちょっと意外な結末を迎える。描いてきたテーマからすると納得のいく結論で、ほほう、と感じいったものであるが……ここでなんと、ジェシカ・ビールと再婚する予定だった男が、突然身を引いてしまう! 「僕もバカじゃない。今でも彼を愛してるのかい?」 出たーっ、『砂漠でサーモン・フィッシング』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20121213/1355376174)の軍人に続くいい人すぎる男だ! 何一つ間違っていないだけに気の毒さが際立つ展開。ラストカットは、よりを戻した家族三人が庭でサッカーをするシーンで幕を閉じる……んだけど、これってその男の家の庭でしょ!? ああ……かわいそうすぎる……。この落ちはちょいと蛇足だったなあ。まあほろ苦さはアメリカではうけないんでしょうけどね……。

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