”クッキー焼いてきたんですけど……”『共犯』(ネタバレ)


 台湾映画!


 通学途中、同じ高校に通う女子生徒の転落死体を発見した三人の男子高校生たち。彼女の死の真相を突き止めようとする三人は、転落の現場である部屋へと忍び込み、秘密の日記を発見する。母親との不仲が綿々とつづられる中、学校でのいじめを示唆した一枚のメモが見つかり……。


 無名キャストを揃えた青春ものかつサスペンス、ということで、ちょいと『ソロモンの偽証』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20150503/1430660680)なんかを思わせるルック。監督は『光にふれる』の人ということで、一応ティーンの青春もの続きということになるかな。


 転落死した少女を発見した三人の男子学生、簡単に描写するといじめられっ子、不良、ガリ勉の、日頃は同じ学校に通っていても決して交わらない三人が同時に通りすがり、発見者として警察に通報する。


 死体を目撃した三人は、学校でカウンセリングを受ける……のだが、内容は「死んだらその先は何もないよ」と役にも立たないお説教をされ、ビデオを見て500字のレポートを提出……補習かよ! この教師自身には何か資格があるのかもしれないが、全然カウンセリングじゃないよ! まるで「発見したことが悪い」かのような扱い、最悪だな……。『GF*BF』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130331/1364614827)でも台湾の学校の保守性が描かれていたが、これもその一環か。その後もまったく役に立たないし、なんだこいつは……。


 少女の死に不審を抱いたいじめられっ子は、不良とガリ勉を巻き込んで真相を探ろうとする。葬式に行き、家に忍び込み、手がかりを探る。家庭に恵まれず学校でも孤立していた少女にいじめられっ子は強烈なシンパシーを抱いていく。いじめられっ子は事件の手がかりを発見し、少女をいじめていた同級生に制裁を加えることを提案する。


 ミステリ映画としては、ここで必ずしも「主人公の視点」を取っていないところがもう怪しくて、その手がかりであるメモを直接発見するシーンがないところと、少女がいじめられるシーンがこの語り以外で見せられないことが不審感を植え付けてくる。なんかおかしいな……?と思うのが、ここ以降のガリ勉と不良の感じ方と思って間違いなく、観客もその齟齬に引っかかりを覚えたままこの後の展開を追うことに。


 「実は何事も起きていなかった」のと「事故」の合わせ技で不可解な展開になるあたり、ミステリとしては変化球。しかし、残された者が、日記や手記を通じて死者の想いを知るのみ、というのならよくある話なんだが、前半の事件の真相を、後半に別の登場人物の心理によってなぞる展開が秀逸。
 中盤にまさかの展開となるいじめられっ子の死後、主役が交代してガリ勉と不良が謎を追うことになる。不良くんの方がイメージに反して、実直に聞き取りなどをこなし、やがて全てを記した日記に到達する……。最初の方で「うわっ、この子頭悪っ!」と思わせた彼がメンタルの強さを発揮して見せるあたりがいいですね。
 その一方、いじめられっ子に肘打ちかまして水に沈めてしまった事故の元凶であるガリ勉くんは、どんどん精神的に追い詰められていく。いじめられっ子の妹ちゃんに、「現場に(不良くん以外に)もう1人いたらしい」と言われ「俺のことだよ〜!」と思いつつも言い出せない。しかし本来なら勉強も教えてくれて人当たりも良く友達も多いガリ勉くんと一緒に事件の真相に迫る(と思い込んでいる)妹ちゃんは、段々と好意を抱いていくのだな。


「家庭科の時間に、クッキー作ったんで、先輩にお礼にあげようと思って……♡」
「また会いたいな……♡」


 共に事件の真相に迫るという共同作業を進めることで親密な気持ちが芽生える……というのは、まったく有り得ることである。そして、この一見関係なさそうな青春ものみたいな描写こそが、実は事件の真相をずばりと突いていたのだ。


 不良くんはロジックと証拠、ガリ勉くんは心理と直感で、ほぼ同時に真相に到達する。
 女生徒の飛び降りはやはり自殺であり、孤独でこそあったものの、彼女が学校で特定の同級生にいじめられていたという事実はなかった。すべては、いじめられっ子くんがたまたまつながりのできた二人、不良くんとガリ勉くんといっしょにいたかったがためにでっち上げたことであったのだ……。


 あまりズバリとは描かれないのだが、スクールカーストものらしく、いじめられっ子(と妹)、ガリ勉、不良はそれぞれ違う階層にいて、普段は交わらないという背景があるのかもしれないね。それが偶然場所を同じくし、さらにガリ勉は勉強が出来て人当たりが良く、不良は我と喧嘩が強く、どちらもいじめられっ子の持っていないものを持っている。この奇跡的な出会いを逃したくない、「また会いたいな……♡」というわけだ。
ぼんやり見ているとなんだそりゃあ、という結末にも思えるが、映像の美しさに裏打ちされた無名キャストたちの儚い雰囲気で見せてくれる。


 反面、ディテールは映像と雰囲気頼みで、若干弱いかなと思わないでもない。主人公をいじめていた連中は、回想シーン以外綺麗に出てこないのが不思議。不良くんにびびって近寄ってこないなら、そういう描写があってもいいし、「目撃者」が彼らだったということでもいいのでは。


 少々小粒だが、なかなか面白かった。あんまり公開本数はないが、やっぱり台湾映画は要注目だな。

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