”豚の血は女へ、バケツは男へ”『キャリー』


 あの傑作がリメイク!


 狂信的なシングルマザーに育てられ、高校生になったのに生理も知らなかったキャリー。初潮を迎えて驚く姿をシャワールームでクラスメイトに笑われ、動画を撮られてしまう。担任の教師は動画を撮ったクラスメイトたちに罰を与えるのだが、キャリーの傷は深まるばかり。クラスメイトの一人はそんなキャリーの姿を見て後悔し、自分のボーイフレンドに彼女とプロムに行くように持ちかけるのだが……。


 『キャリー』と言えばブライアン・デ・パルマ監督作だが、エポックとなったかの作品をリメイク。評判が悪くなると「いや、リメイクではない。原作の再映画化だ」とか言ってみたりするのだが、だからと言って出来が良くなるわけではないわね。


 それでも、冒頭のジュリアン・ムーア出産のシーンはさすがに狂気じみた迫力があって、ここから女性監督らしい切り込みが見られるのかな、とちょっと期待した。まあこのジュリアン・ムーアの演技も近年迫真感を増す一方で、今作でも一人ホラー状態。母性愛ネタと言えば怪作『フォーガットン』などがあったが、今回は完全にマイナスの方向にふれたキャラクター。ガチガチのキリスト教原理主義で縛られた自らの女性性と、出産への恐怖、その結果生まれた子への愛憎……。


 娘は抑圧されながらも、どこかで解放の瞬間を待ち侘びていたのだが、その契機が陰惨ないじめを切っ掛けについに訪れる。
 やはり元のお話の面白さが素晴らしいので、途中まではスムーズに見られましたよ。スマホや動画を持ち込んだ現代的アプローチを抜きにしても、蛸壺のような高校に寄せ集められた未熟な少年少女同士の関係の中で、的外れな善意と、際限のない悪意が交錯する展開は普遍的な面白さがありますね。なかなか主犯格の女の子も憎々しい感じで、いやー、いるよなあこういう自己中な奴が……。で、こういうゲスい奴はそりゃあ罰を受けて当然なんだが、学校の先生も日頃見過ごしにしているくせにこういう時だけ厳罰主義になるもんだから、逆恨みを呼んでしまう。
 それら全てをつなげる「プロム」というキーワード、「ハレ」の舞台の魔力……。そこに出ることが、キャリーにとってもいじめっ子にとっても人生の全てのようになってしまう。それに後押しされて雪だるま式に事態が惨劇へと爆走して行く展開は、やっぱりわかっていてもくるものがあるなあ。


 が、まあクロエ・モレッツもさすがの演技力ではあるものの、やっぱりハマり役とは言いづらい。オリジナル版での、今や『ヘルプ』のばあさんのような役がすっかり板についたシシー・スペイセクの存在感に比べると分が悪すぎる。見た目がかわいければイジメの対象にならない、などというのは、もはや古臭い認識だと思うけれど、やっぱり映画というのは観客を納得させるインパクト勝負なわけで。
 ヒットガールにしても『(500)日のサマー』にしてもそうであったのだが、クロエ・モレッツと言えば年よりも大人びた少女役のアイコンでもあるし、こういうよく言えば純真、悪く言えば物を知らない役はやっぱり似合わない。まあそもそもバスタオルの下にパンツはいてる時点でかなりやる気ないけど……。
 ここは思い切って展開もキャラも改変して、もっと斜めからクラスを見ているキャラにして、豚の血をかぶったキャリーが舞台上から静かに高校生どもを諭しても良かったのではないか……って、それは『25年目のキス』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110607/1307376481)だね。あの映画は25歳になって高校生どもには決してわからないことがわかるようになった、という話なわけだが、現代版なら高校生が説教食らわしたっていいんじゃないか。で、大殺戮を期待してきた観客にも冷水をぶっかけて帰すと……。


 まあそんな展開にならず、大殺戮は起きるわけだが、今作のキャリーは結構最初から能力に気づき、コントロールにも成功しつつあるので、それが妙なブレーキになっているというか、本当の怒りの爆発、怪物への変貌という感じが薄れてしまっているのだな。パーティー会場の人らも本当に皆殺しになるわけではないし……。その代わり、主犯共犯は執拗に追い詰め、残忍に息の根を止める。
 その後は、真のクライマックスでもある母親との対峙だ。そして自らも殺人、母殺しの罪を背負ったことで、地の底へ消えていく……と、この辺りも、結局その無垢性、純粋性が希薄になってしまっているため、なんか嘘っぽいのだねえ。やっぱりもうちょっとタフそうだし、罪を背負うならば、密かに闇の中へ消えていくか彼方へと飛び去る、それこそキングならば『ファイアスターター』も混ぜたようなオチにしちゃってもいいんじゃないか。
 母があれほどまでに抱いていた女性、出産、子への憎悪を否定したラストは悪くないと思うが、ちょっと筋と噛み合ってないというか、クロエのタフそうでそこそこ理性的なイメージのせいでギリギリの選択に見えないし、作り手が頭で考えて入れたような話になっているのもマイナス。『キャリー』って、こんな話だったっけ……となってしまったね。


 デ・パルマの変態性はどこかに行ってしまい、まあまあそこそこ迫力もあるし残酷描写もあるのだけれど、全体としては現代映画らしくマイルドに、ライトになってしまったなあ……という印象。別につまらなかったわけではないが、存在意義があるかというと苦しい、そんな映画でしたね。今や我々には『25年目のキス』があり『21ジャンプストリート』があり『クロニクル』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20131027/1382868073)があるのだ、ということもあるし……。