”時を超え、次元を超え”『インターステラー』


 クリストファー・ノーラン監督最新作。


 疫病や砂漠化により、食糧危機を迎えた地球。国家は半壊状態となり、人類は生存のための食料確保に必死だった。緩やかな滅びを前にして、元エンジニアであり飛行士だったクーパーも、農夫となって二人の子のために働いていた。だが、彼と娘の前に、謎の重力異常が起きる。それは啓示なのか? 未踏の外宇宙への壮大な旅がクーパーを待っている。しかし、それは娘との別れを意味していた……。


 『インセプション』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20100719/1279541086)以来のオリジナル作品ということで、かなり期待していた映画。『インセプション』、『ダークナイト・ライジング』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120730/1343577443)と、ノーランは観客を「連れて行く」手法というのを確立しつつあるかのようで、夢の世界と崩壊ゴッサムに続いて今回はズバリ、宇宙旅行だ!


 砂漠化による地球の破滅が迫る中、食料確保の技術以外は高コストのタブーとして封印されつつある世界。高度医療もすでになく、軍隊も解体され、国家も最早ぎりぎり体を為しているに過ぎない。ましてや宇宙開発なんて、もってのほか……。


 学校でも「月面着陸はプロパガンダだった」と教えられていて、それを学校で教師から聞かされて黙ったまま激オコするマコノヒー(元宇宙飛行士)。今回はノーラン映画初参加のマシュー・マコノヒーが主演。西部の男で開拓者精神に満ち溢れている……はずが、宇宙開発どころじゃなくなり、好きでもない農業を、子供のために何とかかんとかやっているというキャラ。『MUD』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140219/1392725316)、『ダラス・バイヤーズ・クラブ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140309/1394366586)と当たり役を連発中ですが、今回もやっぱりこの人じゃないと説得力がなかったなあ。


 父子面談で学校に行く途中、彷徨っているドローンを発見し、トウモロコシ畑に突っ込んで追いかけていくシーンが鮮烈で、この主人公の他のことはほっぽり出して目的に向かって突っ走ってしまう性格、よく言えば純粋さが見て取れる。息子も娘も、それを見て育っているのだ。
 で、その後、宇宙へ飛び立つことになって、人類を、子供達を救うためなんだ〜と言ってるけど、お父さんはほんとはあのドローンが欲しかった時にみたいに、宇宙に行ってみたいだけなんでしょ!と、娘にその性格を悪く受け取られてしまう。うーむ、否定しきれない。娘に夢を持ってもらいたいがゆえに、宇宙こそロマン!とか言い続けてきたのが完全に裏目。
 この辺り、地球滅亡でも日本沈没でもいいが、リスクを背負って賭けを打とうと言う人と、それよりも諦めて残された時間を大事にしようという人の対立というのは永遠のテーマでもありますね。
 娘の理解を得られないまま、宇宙へ向かうマコノヒー。車で家を離れるシーンでそのままロケットのカウントダウンが重なり、彼にとって娘との別れと旅立ちが同義であることを表現している。いや、相変わらずランタイムは長いんだけど、こういう省略はかなり大胆にやってるし、ちっとも長さは感じなかった。


 半分がたはタイプキャストという感じではあるが、ノーラン映画に複数回出演の人と初出演の人がうまく混ざって、フレッシュさを醸し出している。ジェシカ・チャスティンが成長した後の娘役だが、最近の強い女イメージに加えてウエットさも出していていい感じ。


 兄役のケイシー・アフレックは、登場した瞬間に、「うわっ、ケイシーだ!」と仰け反ってしまった。もうキャストがこの人になった時点でサイコ感が漂ってくるおまかせ配役。まだ子役時代の方が頼れる感じあったよ! 娘を失ってだんだん精神の平衡を欠いてくるわけだが、格別の描写もなくそそくさとやばくなり、この人のイメージにおまかせ、という手抜き感。それより妹の心情が大事だからね……と力の入れどころが偏っているノーラン監督であった。まあそういう扱いでも全然OKです、だってケイシーだもん……。


 そして、シークレット・キャストのマット・デイモン! 計画の発案者である人類最高の天才って、いったい誰だと思ってたら……。いや、『グッド・ウィル・ハンティング』という薄っぺらい説教を垂れる映画が大嫌いな僕としては、これはまさにベスト・アクトですよ。あの才能こそすごいんだが人間的に未熟なキャラが年を経ると、逆に情緒がどんどん薄くなって計算づくばかりで動くようになり、しかもその計算も自己の利益と目的のためばかりになるということですね。マット・デイモンという情緒や自意識の見えづらい顔をした役者にとって、こういう非人間的なキャラというのは、まさにハマり役だ!
 まあ冷凍されてるあいだに、実は機器の不具合で酸素欠乏症にかかっていたのかもしれませんね。その結果、テム・レイ博士のように目的に取り憑かれて錯乱していたのかもしれません。「僕が一番うまくミッションを遂行できるんだ!」ってね。あ、そりゃあ息子の方だったか。
 いやいや、十数年間『グッド・ウィル・ハンティング』嫌いを公言してきた僕ですが、やっと溜飲が下がった思いですね。そうそう、あいつは所詮こういう奴だったんだよ、というのが証明されたような心持ちです。
 きっとノーランも『グッド・ウィル・ハンティング』嫌いだと思うよ。しかしこの人は自分はインテリなんだけど文系かつ多分に情緒的な人で、その頭で持っておそらくちょっとコンプレックスのある理系なネタに突っ込んで行くからどこかしら力技になるのでは、という気がしますね。


 マイケル・ケインあたりはまあおなじみだが、二作目となったアン・ハサウェイはちょっと精彩を欠いたかな。この人は目と口がでかくて、ちょっとピエロっぽい人を食ったような顔をしているのが面白いので(つまりジョーカーだな……)、あんまり真面目なキャラをやっても目立たないのですな。マコノヒーが不平を垂れ、ロボットが突っ込むという漫才の構造に入れなかったのも響いた。


 中盤からウラシマ効果によってガンガン時間が飛び、相変わらずの”カウボーイ”マコノヒーと、成長しちゃった娘ジェシカ・チャスティンの時間軸が同時進行に。ここから盛り上がってくるとノーランが全開! ハンス・ジマー節をガンガン鳴らしながらカットバックで父と娘、二つの戦いを並行して見せるあたり、毎度おなじみで、「来たあ、ノーラン!」「やったぜ、ノーラン!」と手に汗握ったよ。
 一番泣けたのは、ジェシカ・チャスティンがトウモロコシ畑に車で突っ込むシーンで、なんだかんだ言ってこの親子は離れていても繋がっているのだ、と感じさせてくれたシーン。
 ジェシカ・チャスティンの相方がトファー・グレイスで、この人も『スパイダーマン3』からの咬ませ犬俳優だな、と思っていたが、その彼が錯乱ケイシー・アフレックと激突寸前になり、バールのようなものを振りかぶった時は、その咬ませ犬頂上決戦ぶりに大興奮!
 宇宙ステーションのドッキングシーンももちろんハラハラしたんだが、このシーン終わった直後、劇場中から「ブハーッ」「ゴホゴホッ」とむせ返る声が聞こえてきたから驚きましたね。


 トリッキーな構成の『メメント』から始まった監督だが、今回の物語は王道中の王道で、正直先が読めないこともない。オチもそりゃあこう来るだろう、というしかない代物。なんだけど、えっ、そんなに宇宙好きだったのこの人……というぐらいに、昔ながらの多段ロケットやらSF映画へのオマージュを捧げまくられてしまっては、このファミリー向けの王道ストーリーにも納得である。
 ビジュアルも大変美しく、ギャグを飛ばすロボットという新ネタも加えて、一作一作ごとに地道に新しいことに挑戦し続けて、牛の歩みのごとく成長しているのだな、とも感じられましたね。
 そして『ダークナイト・ライジング』からさらに成長したアクションは……というところで、氷原での転がりまわっての殴り合いを見せちゃうあたりも……いや、最高や! この頭突き合戦こそがノーランのアクションなんや!


 いいぞいいぞと思わせるところと、毎度おなじみのあれれれれな部分を併せ持つノーラン映画で、いやはや堪能しました。今後も手を替え品を替え、オリジナル大作で勝負していって欲しいものです。

インセプション [Blu-ray]

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メメント [Blu-ray]

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