”黄昏時に帰る”『セインツ』


 ケイシー・アフレック主演!


 テキサスにおいて銀行強盗を繰り返していたボブとルースの夫婦。だが、最後の仕事のはずが追い詰められ、ルースが包囲した警官の一人を撃ってしまう。降伏し、ルースをかばって自ら罪をかぶったボブは刑務所に送られた。それから四年、偽証によって罪をまぬがれたルースは、ボブの残して行った娘を生み育てていた……。


 妻ルーニー・マーラが大好き過ぎるケイシー・アフレックがムショに入り、脱獄して戻ってくるけど、そこには別の男ベン・フォスターの影が……というのが予告編で受けた第一印象。こりゃあ『キラー・インサイド・ミー』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110502/1304263135)でも人格破綻者だったケイシー・アフレックが嫉妬に狂って修羅場になるに違いない! と予想したのだが、そんなお話ではありませんでした……。


 とにかく画面が暗くて、最初は首を傾げたが、これは自然光を活かした演出なのであるな。夕暮れや夜のシーンを中心に構成し、若くして人生の黄昏を迎えたかのような登場人物の心象を描く……。
 子供と秘密を背負う妻と、罪を背負った夫。離れ離れで、互いに求めあいながらも、妻はその秘密ゆえに決して会おうとしない。声を殺して泣きながら、想いを押し殺す。それを追い、彼女と子に会いたいがためについに脱獄を成功させる夫……。


 とにかく誰も声を荒げず、静かに感情を見せていくドラマで、向こう見ずな夫を愛しつつもそれをバッサリ切って子供のために生きようとするルーニー・マーラお母さんがシビアすぎ! ケイシーは人格破綻者というほどでもなかったが、やっぱり夢見がちでコミュニケーション能力に乏しい男のように描かれているね。そして、色気を決して出さずに二番手ポジションを守ってルーニーを見守るベン・フォスター! なかなかいい味を出しているとも言えるが、だから君はピンの主役になれないのだよ、という気もしましたね。


 しかしルーニー・マーラはこういうキャラが板についてきたなあ。内面には激しいものや豊かなものを秘めているのに、表面には出さずにしたたかに振る舞おうとする。でもどこかにか弱さや儚さを感じさせ、実は傷つきやすいのだけれど、必死に強くあろうとしている……。キャラクターは全然違うのだが、『ドラゴン・タトゥーの女』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120212/1329018162)や『サイド・エフェクト』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130910/1378816394)なんかもベクトルは同じであるな。
 で、ほんとはケイシーに会いたいけど、心を鬼にして子供のために行方をくらますのよ、わたしは……と淡々と、でも内側から何かを滲み出させながら語るわけですよ。それを抱きしめたいっ!と思いつつ何もしないベン・フォスター……!


 あまりに誰も「オーマイガッ!」とか言わないので、もうちょっと驚いた方がいいんじゃない、と心配になってしまう端正な映画。面白くはないんだが、まあたまにはいいか……と思いました。